2014年11月24日
だらしない
実は,「たらしこむ(誑し込む)」の語源を調べていた。
「誑らす」
「蕩らす」
と表記し,
たぶらかす
の略ということで,簡単に決着がついてしまった。意味は,
うまくだまし込む
とか
誘惑して自分のものにする
ということらしく,それ以上の奥行はなかった。しかし,語源辞典の同じページにあった,
だらしない
が気になった。
意味は,
しまりがない,
ふがいない,
期待外れで情けない,
節度がない,
体力がなく弱弱しい
といった意味になる。だが,「たらし」について,
たらしとは女性を騙したり,言葉巧みに誘惑して弄ぶ男性のことで,「たらし」には動詞形「たらす」の「巧みな言葉で騙す」という意が含まれている。ただ,「たらし」を「だらしない」の略として「女にだらしない男」という意味で使っている人も少なくない。「たらす」は対象を特に女性を騙す男性と限定していないが,たらしは「女たらし」の略語として普及したため,こういった男性を指す,
とあって,まんざら,「だらしない」と無縁ではないらしいのである。
「だらしない」の語源は,いくつか説がある。
①「シダラ(手拍子)+ナイ」の倒語説。手拍子がしまらない,という意味。
②「シダラ(自堕落)のなまり+ナイ(甚だしい)」。自堕落の極み,という意味。「ふしだら」のシダラとする説もある。
③「シダラ(梵語,修多羅=秩序規律)+ナイ」で,無秩序の意味。
その他にも,
「しだらない」から「だらしない」に音節順序が変ったには,江戸時代に逆さことばがはやり,「あたらしい」が「あらたしい」になったのと似た現象とする説,
もある。類語を,拾ってみると,
ふしだら(サンスクリット語「sutra」を音写した「修多羅」が語源。 古代インドでは ,教法を「多羅葉」という葉に刻書し,散逸 しないように穴を開け,紐を通していた。 この紐や糸を「修多羅」といい,「シダラ(修多羅,きっちりと束ねる)」。これに「不」がついて,だらしない,しまりがない。)
大雑把(「雑把」は,雑にまとめられたものを表す。薪にするために切り割ったした木切れの「薪雑把(まきざっぱ)」という使い方をする。使われる。 方言では,燃料 にする屑板の束や,粗い茶の葉を「ざっぱ」という地域もある)
おざなり(「お+座+なり(そのまま)」で,その場を取り繕うだ,いい加減な処置の意。江戸時代,「ざなり(座成)」や「ざしきなり(座敷成)」と用いた。 座敷(宴会の席)でその場だけの取り繕った言動をするさまを表した。)
ちゃらんぽらん(語源は「チャラン(鉦の音)+ポラン(鼓や木魚などの音)で,いい加減な,の意味。無責任な態度,「ちゃらちゃら(勤続の触れ合う音)」も同類。)
ふぬけ(「腑+抜け」で,身体の中の臓腑が抜けている意。信念や態度にしっかりしたものがない。)
ぐうたら(近世,「ぐずくずして気力のない男を擬人化した「愚太郎兵衛」からきている。)
杜撰(「宋の杜黙の詩が,多く律に合わなかった故事」が語源。付可視化でいい加減なこと。)
だらだら(「タラ(垂ら)+くりかえし」の,水や汗がしたたり落ちる様子を表す言葉の濁音化。たらたらを強めた不快感を表す。)
でたらめ(「出たら+目」で,さいころをふって出たら,その時に出た目に合わせる,という意。ランダム。)
でれでれ(語源ははっきりしないが,擬態語に近いのではないか。動作・態度・服装などに締りがなく,だらしないさまだが,特に異性に心を奪われて毅然とせず締りのないさま。)
のんべんだらり(①「ノベル(伸)+ダラリ」。身体を伸ばしたまま,だらりとしているさま。②「ノベル(延)+「ダラリ」。仕事を先送りして,だらだら日を暮す。③「飲むべえでだらり」。酒ばかりのんでだらだら過ごす。三説とも,自然発生的に出てきた俗語。)
ルーズ(英語のlooseから来ている)
不摂生(身体の健康に気をつけないこと。摂(攝)の「聶」は,いくつかの物をくっつけることを示す。「手+聶」で,散乱しないわように多くの物をあわせてもつ意。生のコントロールとよめなくもない。)
のらくら(「のらりくらり」が語源。)
妄り(「乱る(水垂る)」の派生語。「妄」は,「亡(道理に合わない)+女(小さくてかわいい)」とか「女性が心を惑わされ,我を忘れる」といった意味で,正統でない,普通とかけ離れた意。)
脆い(擬態語「ポロポロ,ボロボロ」から来ている。壊れやすい。)
益体もない(「益体なし」を分解した語。役に立たない意。)
みっともない(「見とうもない」「見たくもない」が見苦しいに変化した。)
等々になる。いやはや,これだけならぶと,「なんだかなあ」と言いたくなる。
結構,多く,日常の振る舞いやら動作,その様を表す擬態語から来ているらしいところが,面白いと言えば言える。その「だらしなさ」の状態,様子を,そのまま敷衍化したと言えば言える。たとえば,ぐずぐずとしているのを,
ぐずる
と,一般化していくのに似ている。「ぐずる」は,
「ぐず(擬声語)+る(活用語尾)
から来ている。ぐずったり,ただをこねたりする,を大人に転用すれば,
言いがかりをつける,
になる。いまも,日常の態度から,擬態語,擬声語として,一般化するものが出てきているにちがいない。そのうち,
スマホる
がヒマつぶしと,汎用化されたりして。
まあ,それだけの話。お粗末様。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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