2014年12月18日
勿怪の幸い
「勿怪の幸い」
とは,思いがけないような幸運が舞い込んでくること。降ってわいたような好機。
まあ,僕にはあまり縁がないが,
「物怪の幸い」
とも書くらしい。語源を調べると,「もっけのさいわい」とは,
「(思い)設ケヌサイワイ」
の変化,という。
モウケノサイワイ→モッケノサイワイ
と変化したという。「勿怪」は当て字で,別の表記,
「物怪」
は,「ブッカイ」で,
あやしいものの意,という。
「物怪」からきているのか,「勿怪の幸い」の「勿怪」とは,
人にたたりする死霊や生霊の「物の怪(け)」のこと,
とする説もある。でもって,
「もののけ」が「もっけ」となり,「妖怪」「変化」の意味となった,とする。それが,室町時代,「意外なこと」という意味になり,「意外な幸運」という意味に変じた,と。つまり,
「もともとは,物の怪(勿の怪)の幸いといい,物の怪(妖怪)がもたらす幸福を意味した。山姥や鬼や座敷童子が禍や福をもたらすという,各々違う物語が伝承されていて,妖怪は祟りや恐怖だけの存在ではなく,時として幸福を授けてくれる存在であり,古神道や神道の神々や,九十九神も同様に禍福をもたらす存在である。これらは,自然崇拝に見られる特徴であり,自然の一部である天気や気候においても,適度な晴れや雨は実りや慈雨であるが,過ぎれば日照りや水害になることと共通する。」
とも。どちらが正しいかはわからない。要は,語源の定かではない言葉らしいということだ。ただ,
禍福はあざなえる縄の如し
で,たとえば,「化け」が
「大化け」
になるように,あるいは,化粧が
化生
から来ているように。いや,あるいは,本来,化生は,
語源は仏教語にあり,あらゆる生きものを生まれ方の違いによって四分類した四生(ししょう)の一つ
だそうである。因みに,四生は,
胎生(たいしょう)。母胎から生まれるもの。人間,象,牛などの人類および獣類。
卵生(らんしょう)。卵から生まれるもの。孔雀などの鳥類。
湿生(しっしょう)。湿気の中から生まれるもの。蚊・蛾などの虫類。
化生(けしょう)。よりどころなしに,自らの過去の業力によって忽然と生まれるもの。天の神々,地獄の住人,前世の死の瞬間から次の生を受ける瞬間までの中間的存在である中有(ちゅうう)の生きもの。
で,そのため,仏や菩薩など天界の衆生を指して,
弥陀の浄土に直ちに往生すること,
といった意味さえあるのに,変じて,
化け物,
変化
を指すに至るのと,似ている。
それにしても,「勿怪の幸い」は,
思いもうけぬこと,
意外,
という意味だが,例えば,こう言う説明がある。
想像も出来ないことから災いが福に転じることや,思いもしなかったような幸せが転がり込んでくるさまを表す言葉である。不幸中の幸い,棚から牡丹餅に通じる。
棚ぼたは,たまたま頭上の棚から牡丹餅が落ちてきた,というだけのことだ。たしかに,
思いがけない幸運
には違いないが,昔の人が,「勿怪」「物怪」を意味なく当てたとは思えない。「物怪」「勿怪」は,
思いがけないこと。不思議なこと。また,そのさま。
異変,災害,けしからぬこと。不吉なこと。また,そのさま。
とある。「勿怪顔」という言葉もある。
不思議な顔
意外な顔つき
という意味である。確かに,「勿怪の幸い」の類語は,
まぐれ幸い
僥倖
拾い物
という言葉があるが,「物怪」の,裏の意味,つまり,
不吉なこと,
や
異変
のなかの,
にもかかわらず,
それなのに,
それが,意想外に幸いをもたらした,
災い変じて幸いとなる
とか
禍を転じて福と為す
というニュアンスが込められている気がしてならない。だから,「勿怪」「物怪」の字を当てたように思えてならない。
因みに,「わざわい」は,
「ワザ(人力の及ばない不気味な神意)+ワヒ(接)」
で,「サイ(幸)+ワヒ」に対する語。ついでに,「禍」は,
「示(神・祭壇)+咼(まるくくぼんだ穴)」
で,神の祟りを受けて4思いがけない落とし穴にはまることを意味する。つまり,神が下すわざわい。「災」の,
「巛」は川をせき止める堰
で,それに「火」を加えた「災」は,
順調な生活を阻んで止める大火のこと,
それを転じて,生活を邪魔する物事を指す,という。
「災」にしろ「禍」にしろ,身の不幸を嘆いた,と思いきや,一転幸運が舞い込んだ,その一端の落ち込みが,そのあともたらされた幸いの嬉しさの大きさを示している,そんな気がする。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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