天体衝突
松井孝典『天体衝突』を読む。
2013年ロシア南部のチェリャビンスクに落ちた隕石は,
「これまで潜在的に指摘され,あるいは実際に,地球史や生命史においては,それが本質的な役割を果たしてきたことが近年明らかにされた天体衝突という現象が,人類あるいは社会に,実際に大きな被害をもたらすことを実証した天体衝突」
であったらしい。天体衝突は,小惑星か彗星ということになる。
「素性的にいえば小惑星は岩石的物資で,彗星は,氷を主成分とする『汚れた雪だるま』と形容される物質である。……彗星はもろいので,それが衝突すると,普通は,大気上空(50㎞以上の上空)で爆発してしまう。。隕石のように破片が地表で回収されるということはない。」
「衝突した天体の破片が地上で回収されると,その物質は隕石と呼ばれる。」
チェリャビンスクで回収された最大のものは,600㎏といわれる。回収された隕石の総量は,4~6tとされるが,それは小惑星の質量の0.03~0.05%に過ぎない。その3/4が,アブレーション(熔発)によって蒸発し,残りが塵になったと考えられている。
「小惑星の大気圏通過時は,前面の大気が圧縮され,超高温(場合によっては1万度を超えるほど)になる。小惑星の表面はこの熱で加熱され,温度が上昇し,気化し,発光する。これをアブレーション(熔発)という。」
らしい。このため通過する小惑星は明るく輝く「火球」に見える。チェリャビンスクの場合,太陽より明るかったという。被害は,広範囲に及び,建物だけで,3613棟,その大半は,「大気中で生じた衝撃波による」という。
「衝突が人口密集地の近くで起こり,したがってその被害が広範囲にわたったため,天体衝突が文明にどのような影響をもたらすか,その影響を推定することができる,初めてのケースになった。」
人類が初めて天体衝突による天変地異を経験したというケースということらしい。しかしもちろん天体衝突が稀というわけではない。しかし,わずか20m弱の大きさで,その爆発エネルギーが500㏏,爆発高度が25㎞と高かったにもかかわらず,この被害である。この100年前,ツングースカ爆発では,爆発エネルギー5~1.5Mt(メガトン:TNTt7h 100万tと同程度のエネルギーを表す)と,一桁大きく,爆発高度が6~8㎞と低かったため,チャリャビンスクとは比較にならない大きさだったが,人跡未踏の地だったのが幸いした。
高速で地球に衝突した場合,何が起きるのか。
「天体が超高速で大気圏に突入すると,……天体先端部の大気中の生じたこの高圧部分は,パルスとして,大気圏中にも伝播する。その伝播速度は,大気中を伝わる音波(縦波)よりもずっと速く,これが衝撃波と呼ばれる密度の高い高圧波である。(中略)天体の前面に当たる大気は圧縮され,高圧を発生するが,側面や後端部では,そのような圧力は発生しない。そのため天体は,先端部と後端部,あるいは側面とで,異なる圧力を受け,結果として,全体として押しつぶされるような,あるいは引き裂かれるような力を受けるようになる。
前面で発生する圧力は,大気の密度と,天体の運動速度の2乗に比例する。…大気の濃い部分に達するに従い,圧力は急速に大きくなる。そのため圧縮する力も大きくなり,それが天体の強度を超えると,破壊が起きる。破壊が起こると,衝撃波が各破片の前面で発生するようになり,衝撃波は全体として強くなる。破片は破壊以前に比べて軽いため,減速も大きくなり,衝撃波は進行方向にも伝播するようになる。これが爆発による衝撃波である。」
衝突天体の大きさが1㎞になると,大気圏通過中の爆発は起きず,地表に激突する。
「天体が地表に超高速(標的物質を伝わる縦波速度以上という意味)で衝突すると,地殻との接触部で,衝撃波が発生する。衝撃波は,地殻,マントル内部,それから衝突天体とそれぞれの内部に伝わる。…衝突天体は,接触後すぐには減速されないから,衝突後は地殻にもぐりこむ。その間,衝突天体内部に伝わる衝撃波は後端に向かって進行し,例えば,10㎞の直径とすれば,数秒もしないうちに後端に達する。そこで反射すると,衝撃波は,今度は圧力を開放する波(爆発のように,それが通過すると,その通過した部分を破壊し,吹き飛ばす波)として逆方向に伝わっていく。それが,衝突本体から地殻,マントルへと伝わり,先を行く衝撃波に追いつくと,その相互作用により方向が変わる。結果として,その軌跡が放物線を描くように,破片が放出される。」
単純に,衝突の掘削による一時的なお椀型の穴のクレーターと,この穴が大きい場合,すぐに変形し始め,内部からその穴の空白を埋めるような力が働いて,そこが押し上げられ,中央が山のように盛り上がったり,その壁が崩れたれたり,その外側にひび割れが同心円に広がったりと,さまざまな衝突のクレーターのバリエーションは,月面に見ることができる。
そもそも地球に対して月(地球の直径の1/4)のような大きな存在そのものが,実は珍しい存在らしい(冥王星の衛星カロンくらいしかない)のだが,アポロ計画で,
「月の岩石は基本的には,地球のマントルと似ていること」
が明らかにらなり,月と地球は,「兄弟の関係」にあり,
「地球形成の最終段階で,原始地球に火星サイズの原始惑星が衝突し,周囲にまき散らされた破片の集積により,月が生まれた」
という「ジャイアント・インパクト仮説」という考え方があるくらい,地球にとって,天体衝突は,その地球史上頻繁に起こっている。ではどのくらいの頻度で起きるているのか。
100㎞サイズの天体で,数十億年に一回,
10㎞サイズの天体で,数千万年から1億年に一回,
1㎞サイズの天体は,100万年に一回,
100mサイズの天体なら,1000年に一回,
50m(ツングースカ程度の)サイズの天体は,100年に一回,
と推定されている。しかし,数㎞以下でも,文明に影響する。
「その理由の一つは,人類が生物として,衝突による地球環境の影響を受けやすいことがあげられる。そしてもう一つは,文明が沿岸域や大きな川沿いに生まれ,衝突の直接的影響を受けやすいからである。」
と,著者は警告する。今日では,恐竜の絶滅は,天体衝突によるものと,ほぼ考えられるようになっている。メキシコ・ユカタン半島地下にある,6500万年前の白亜紀末の巨大なクレーターは,その衝撃の大きさを推定させている。
衝突したのは,小惑星。地表に対して,約30度で,南南東の方面から衝突した。その大きさは,直径10~15㎞,衝突速度は秒速約20㎞。この衝突によるエネルギーは,10の23~24乗J,広島型原爆の10億倍。
その結果起きたのは,
「衝突直後には,衝突地点周辺は,時速1000㎞を超える爆風に襲われる。衝突の瞬間に発生する蒸気雲の温度は1万度を超え,北米方面に広がっていく。周辺では森林火災が発生する。クレーターの形成に伴って,破片が放出され,宇宙空間にまでとばされる。それが再び大気中に突入し,大気を加熱する。再突入した破片の温度は,260度にも達し,その影響は数時間続く。」
この熱で,「大気の主成分窒素が酸化され,大量の一酸化窒素が発生する。…長期的な変動としては,オゾン層も消滅した」とされる。ユカタン半島は浅い海に覆われていたらしいが,クレーターに向かって海水が浸入し,300m超えの津波が発生したと推測されている。深刻なのは,中・長期的な変動で,
「衝突に伴い大量の塵が巻き上げられる。森林火災により大量の煤が発生し,大気中を漂う。衝突地点に厚く堆積していた硫酸岩は蒸発し,硫黄を大気中に放出する。」
数ヵ月から数年大気中に滞留して,太陽光を遮り,地球を寒冷化し,衝突後10年くらいで最大10度の寒冷化が起きる,と予測されている。しかも,大気中の硫黄は,酸素と反応して,硫酸となり,地球に降り注ぐ。海は酸性化することになる。
これまで地球上に生きていた種の99.9%は絶滅している,と言われる。つまり,「種が生まれた総数は絶滅した種の総数とほぼ同じ」なのである。こうした種の死滅も,あるいは進化も,天体衝突という「激変」と無縁ではない,のではないか,という説が大勢になっている。ということは,我々にとって,天体衝突は,大きな天変地異どころか,文明そのもの,人類そのものの存続を左右するほどの影響がある。プラトンの書いた,アトランティスは,そういう意味では,象徴的な意味をもつ。
「宇宙からの天体衝突を監視し,衝突する可能性がある場合にはそれに対処する方策を,世界で考えようという機運が高まっている。」
というのも,至極もっともな話である。
参考文献;
松井孝典『天体衝突』(ブルーバックス)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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