傘というと,連想が変かもしれないが,傘化けを思い出す。水木しげるの妖怪でも登場する,一本足で,ひとつ目の妖怪である。

妖怪については,かなり前,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163408.html

で触れたことがあるが,使い古して捨てられた道具が妖怪になる,それを,つくも神と呼ぶ。

つくも神とは,ウィキペディアに,

付喪神,は当て字で,正しくは「九十九」と書き,この九十九は「長い時間(九十九年)や経験」「多種多様な万物(九十九種類)」などを象徴し,また九十九髪と表記される場合もあるが,「髪」は「白髪」に通じ,同様に長い時間経過や経験を意味し,「多種多様な万物が長い時間や経験を経て神に至る物(者)」のような意味を表すとされる,

とある。長く生きたもの(動植物)や古くなるまで使われた道具(器物)に神が宿り,人が大事に思ったり慈しみを持って接すれば幸をもたらし,でなければ荒ぶる神となって禍をもたらすといわれる。つまりは,親しみ,泥んだものや人や生き物が,邪険にされて妖怪と化す,というわけだ。どうもそれはものや生きもの側ではなく,こちら側の負い目や慙愧の念に由来する影に思える。確か,花田清輝が,

「煤払いのさい、古道具たちが、無造作に路傍に放り出されるということは、彼らにとって代る新しい道具類のどんどん生産されていたことのあらわれであって、室町時代における生産力の画期的な発展を物語っている」

と書いたいたように,こちらの都合によるものらしい。だから,捨てられたものは,妖怪に化す。

傘のような日用品は,とりわけそうなのだろう。そのほかに,化けぞうり,化け下駄,甕のやお化け甕長(かめおさ)等々あるようだ。八百万の神々をまつるわれわれらしい。そう言えば,長く生きた大木や昔からある岩に神が宿ると考えるので,それらもつくも神と見なすことはあるようだ。

ところで,日本語では,語源的には,

カザス,カザシの語根

で,雨,雪,日光を防ぐために頭にかぶるもの,のことを意味する。古来「かさ」は笠を指し,傘は「差しがさ」と呼称したらしい。

確か,ずいぶん前,朝日新聞の記者が,防水性を調べた時,編笠,陣笠,網代笠等々と比較して,いわゆる三度笠が最も優れている,という体験記を記していたように記憶しているが,昔の旅人の知恵はなかなかしたたかなのだと,思い知らされる。

調べると,「三度笠」は,股旅ものなどの時代劇で渡世人が被っている印象が強いが,

もとは江戸,京都,大坂の三ヶ所を毎月三度ずつ往復していた飛脚(定飛脚)のことを三度飛脚と呼び,彼らが身に着けていたことからその名がついた,

と言うのだから,雨に強いのは当たり前と言えば当たり前だ。しかし,笠には,「陣笠」や「塗笠」というのがあり,

塗笠は,檜や杉の板材を薄く剥いだ「へぎ板」に和紙を貼って漆を塗って作成
陣笠は,竹で網代を組んで和紙を貼り,墨で染めて柿渋を塗って作成。刃や矢などから身を守る防具

といい,陣笠は,戦国時代の足軽が貸与されたもので,それだと,

締めた皮革の裏側に「筋金」と呼ばれる鍛鉄製の骨板を渡し漆をかけたもので,

後には鍛鉄製のものに代わったほどだが,これは鉄炮が主流になったのに対応したものに違いない。こうなると,まったく別の用途で,雨に濡れないのは当たり前だが,ただ三度笠に較べると,動きやすさから,直径がはるかに小さくなっているはずである。

ところで,傘というと,高貴な人に差し掛けている天蓋(開閉できない傘)を思い描く。それは古代中国で発明されたらしく,その後百済を経て,仏教儀式の道具として日本に伝わり,「きぬがさ」(衣笠)と呼ばれた,らしい。

平安時代に製紙技術の進歩や竹細工の技術を取り込んで改良され,室町時代には和紙に油を塗布する事で防水性を持たせ,現在と同じ用途で広く使用されるようになった。それと共に傘を専門に製作する傘張り職人が登場,技術が進歩し,『七十一番職人歌合』には傘張り職人の姿が描かれている,

という。

そういう経緯からか,「唐傘」と呼ばれたようだが,

和傘はおもに竹を材料として軸と骨を製作し,傘布に柿渋,亜麻仁油,桐油等を塗って防水加工した油紙を使った。洋傘の骨が数本程度に対して,和傘の場合数十本の骨が用いられる。これは洋傘と傘の展開方法が異なるためで,余った被膜を張力で張るのではなく,竹の力により骨と張られた和紙を支える仕組みとなっているためである。窄めた際に和紙の部分が自動的に内側に畳み込まれる性質を持つ。

という。

それにしても,基本的に,洋傘にしろ,和傘にしろ,

全体を支える中棒,

全体を覆う傘布(カバー),

傘布を支える骨,

によって構成される。これは傘のはじまり以降変わらない。折り畳み傘だって,骨が屈折できることをのぞけば,一向に変わらない。

傘が,手に持たなければならないいわれはなく,雨を防げればいいのだから,たとえば,

頭上に雲のように,

あるいは,

風船のように,

浮いていてくれても,雨は防げる。誰もが同じことを発想するらしく,ネットでこういうタイプの傘(と当てていいのかどうか)が詐欺案件としていっとき話題になったことがある。あるいは,収納性という点で言えば,

ミウラ折り

のように折り畳める平の面の方が,いいのに,

平たい円錐形

という原型からあまり出ないのには,理由があるのだろうか。

大きな三度笠に,市女笠のような,雨除けのカーテンようのものがついていれば,両手があくし,好都合に思えるのだが,ちょっと見かけは悪い。







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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