結界


魑魅魍魎の跋扈する時代になった。トップ層の敵対者への恫喝が当たり前になり,下々も,それが許されると思うようになった。何となく封印されてきたはずの妖怪,死霊の如きものが,結界の封印が破れたせいか,あるべきでないものが,平然と白昼闊歩するようになった。世も末である。

ヤクザな奴が上に立つと,ヤクザが跋扈する。
平然と口から出まかせを言う人間が支配者面をすると,詐欺が常態となる。
知性と教養を軽んずる人間が為政者になると,その国全体で下卑た人間が肩で風を切る。
鉄面皮な人間が表舞台に出ると,卑劣漢が大手を振って正義漢面をする。

従来あり得ないことが,昨今平然と起こる。八木秀次とは何者か知らないが,(産経新聞正論メンバーらしいので)右翼に位置するのだろうが,

「両陛下のご発言が,安倍内閣が進めようとしている憲法改正への懸念の表明のように国民に受け止められかねない」「宮内庁のマネジメントはどうなっているのか」

などと批判するということが,まかり通る(のは,一面いい時代という言い方もあるが,それは右にとってだけで,左やリベラルにはその許容はないのは,山本議員の直訴批判を見ればわかる)。それは逆にいえば,もはやまっとうな保守も,右翼も存在しないということに他ならない。

今上天皇の新年挨拶の,

「東日本大震災からは四度目の冬になり,放射能汚染により,かつて住んだ土地に戻れずにいる人々や仮設住宅で厳しい冬を過ごす人々もいまだ多いことも案じられます。」
「本年は終戦から七十年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々,広島,長崎の原爆,東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に,満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています。」

に対しても,「反日」(笑える。「万世一系(とする)」その当人が?)とかの批判がネット上にあり,

「愛国者を名乗る人が,天皇陛下を批判する時代がくるとは想像もできなかった。」

というつぶやきが,散見される。結界の封印が破れたとしか言いようがない。天皇は,非政治的である立場をぎりぎり踏み出している。

「天皇の『放射能汚染により,かつて住んだ土地に戻れずにいる人々や仮設住宅で厳しい冬を過ごす人々もいまだ多い』という言葉にドキリとする人も多いのでは。なぜなら放射能汚染という言葉を使うのはもはや「サヨク」的であり,為政者は『福島を応援する』などという言葉でお茶を濁すのが通例だから。」(想田和弘)

それを嗅ぎ取っての天皇批判であるに違いない。

政権が,法人税減税,派遣法緩和,残業代ゼロ制度成立へと歩を進めているのも,竹中平蔵が「『正社員をなくしましょう』『全員を正社員にしようとしたから大変なことになったんです』」と言うのも,軌を一にしている。つまりは,企業にとっての六重苦,

円高,
高い法人税率,
自由貿易協定への対応の遅れ,
製造業の派遣禁止などの労働規制,
環境規制の強化,
電力不足,

への(自民党的政治家の)政治的対応の一環である。しかし僕には,日本の大企業の甘えに見える。企業は,国に頼るべきでないことを頼ろうとし,自助努力をしようとしていないようにしか見えない。これでは,戦前の財閥の在り方にだぶってくる。それは,戦争が必要になるということだ。そのせいか,某JR東海の会長は,「戦争が起こってくれればいい」というようなことを言ったと聞く。

労働規制というが,いまの労働基準法(組合法はあってなきが如き)でも,ほとんど残業についてはザル法同様になっているのに,おおっぴらにゼロとなったら,タテマエは,成果といいつつ,企業すべてがブラック化するのは目に見えている。こういうことで,企業の競争力を高めようとするのは,ほとんど天に唾する所業で,人材が枯渇していくだけだ。人が財産だと気づかない企業は,ブラック化するか,政府にしがみついていくしかない。武器輸出にODAというのは,そういう類の発想だ。戦争をしなくては,企業が成り立たないようになる。

因みに,森永卓郎氏は,朝なまで,

「(派遣法を緩和するのは)はっきり言えば,派遣業界と政権が癒着しているからですよ。私は経企庁にいて最初の派遣法を作ったメンバー。ピンハネをする悪質な業者が一杯いたので,技術の高い通訳等に限定していた。それを小泉竹中で原則自由にしてしまった」

と言っている。パソナ会長の竹中平蔵氏は,

「日本の正規労働ってのが世界の中で見て異常に保護されているからだ」と述べ,正社員の保護を廃止するべきと主張。さらに「正社員をなくそうって,やっぱね言わなきゃいけない」

と言った。派遣業をなりわいとするパソナ会長という立場で発言するという,前置きなしで(というか隠して),私的利益を公的な問題にすり替えて,平然とウソをついている。どこかで箍がが外れたというか,自己倫理を欠いているというか,森永氏の「派遣業界と政権が癒着」という発言が重みを増す。

ところで,何代か前までの日本の(自民党の)トップは,

戦争がなくては成り立たなくなるような経済(人)にはしたくない,

と,アメリカに言うだけの器量と気概のあるひとがいた。

いま,声が孤立してしか上がらなくなり,せいぜいサザンのように,

「桑田佳祐『アベーロードA』
https://www.youtube.com/watch?v=o-k5vGmCwzg&app=desktop

精一杯の皮肉な歌を歌うしかない。しかし,幽鬼どもは大挙してくる。宋文州氏は,

「 権力や時流になびく人達の共通点:
①同時に吠える
②同じ口調で吠える
③弱い人に吠える」

と喝破している。いまその流れが大きくなりつつある。やがて,個々人では止められなくなるだろう。町中ヘイトと雑言が一杯になり,かつてのスローガンのように,

「生活下げて,日の丸上げて」

という時代の雰囲気が,もうそこまで来ている。そうなってからでは(個々人では)抵抗することができないのは,戦前で実証されている。

安倍首相の年頭所感,

日本を再び,世界の中心で輝く国にする,

というのは,「日本を取り戻す」というのとつながっていて,かつては,輝いていた(が今は違う)のだという思い(妄想)があり,だから,<再び>なのだろう。

元官僚の,古賀茂明氏は,

「安倍さんの政治哲学:『国民は馬鹿である』
1.ものすごく怒っていても,時間が経てば忘れる
2.他にテーマを与えれば,気がそれる
3.嘘でも繰り返し断定口調で叫べば信じてしまう」

と言っている。まさに,そうなりつつある。麻生氏が言う,「ナチのまね」,つまり,

噓も百回言えば,真実になる,

の実行である。しかも,あれだけ政権とその翼賛メディアを挙げて朝日新聞を叩き,山本議員が質問書を出したように,国費(内閣官房費)で,主要メディアトップとの会食を40回以上続けてきたのだ。その効果があったのか,首相補佐官が,

「新聞はおとなしくなった」

と嘯いて憚らない。それは,地方でも同じように起こり,佐賀県武雄市議が,相手方に,

「首を洗って待っててね」

とヤクザ顔負けの報復宣言をする。この国は,権力を握っている政治家も官僚も,上(天下りする高級官僚)から下(どこか末端に潜り込ませてもらうノンキャリア)まで,まっとうなヤクザも真っ青になるくらい,人品骨柄の欠片もなく,腐りきっているようにしか見えない。このよってきたる背景については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/411281361.html

で触れた。まさか企業人まで,すべてがそうとは思いたくないが,時代の奔流に,誰も逆らえなくなるのが恐ろしい

いまも,フクイチは,日本どころか,太平洋を汚染し続けている。しかし,原子力規制委員会の田中俊一委員長は,九州電力川内原発の審査に関し「御嶽山の噴火とつなげて議論されているのは,全く違う話だ」「相当数の火山を調べ,御嶽山の噴火よりもっと大きくても影響がないことを評価している」と反論した。安全神話をまた,言葉だけで上塗りしようとしている。まだフクイチすらコントロールしかねているというのに。

天皇自身が,「放射能汚染」(という言葉を使う人間を「放射脳」と揶揄される)という言葉を使わざるをないほど,全国的に極楽とんぼの風潮が蔓延している。しかし国内メディアは死んでいるが,海外メディアはそうではない。

「ドイツ国営放送ZDF 『フクシマの子供たちの放射線障害』。

http://www.asyura2.com/12/genpatu28/msg/779.html

では,日本国内で報道されないことを流す。それを日本以外の国々の人は,見ている。ある台湾の人は,「いつまで他人事でいるのか」と日本の無関心を非難したが,世界は,フクイチに危機感を募らせている。地球規模の問題であり,誰にとっても,ひとごとではないのである。

福島県の小児甲状腺がんは,合計112人(確定84人)に増加し増え続けている(「関東の子供の甲状腺 1818人中正常は672人だけ」という調査すらある)。チェルノブイリよりも高い値なのに,国内メディアは「福島原発事故との関係はない」と言い続けている。

ノーベル平和賞を受賞した,ヘレン・マリー・カルディコット博士は,

「福島の高線量地域で,子供や妊婦,妊娠可能な年齢の女性を避難させないのは“医学的犯罪”だ。18歳未満の子供に超音波検査を実施したところ,約40%の子供に甲状腺異常が見つかったという。これは小児科の見地からみて極めて異常だ。福島の事故は終わっていない」

とはっきり告発し,様々な提言を行っている(政府もマスコミも無視し続けている)。

なるほど,報道の自由度は,鳩山政権時代11位で,いまや59位。

何を信じるかではない。情報は,自分で簡単にアクセスできる時代になった。にもかかわらず,

天皇陛下「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていく…」
安倍首相「国民の皆様とともに,日本を,再び,世界の中心で輝く国としていく」

後者の方が明るいと感じる人がいるのである。まさに,「今だけ,金だけ,自分だけ」である。

しかし日本の幸福度は先進国で最低の43位。インドネシアよりも低く韓国の41位より低い。だからと言って,国を輝かせても,自分は輝かない。そう思うのは錯覚でしかない。






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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