2015年02月05日

機・期・幾


機・期・幾,

前から気になっていたのは,「機」と「期」の違い。それと「幾」が絡むとは知らなかった。そこには,

「幾」:ごくわずか,兆し,機微
「機」:物事の仕組みのツボ・勘所
「期」:約束された時,時が熟し満ちる

「幾と機と期を観る」とは,ごくわずかな変化の兆しを察し,それを動かす勘所に焦点を合わせたら,後は時が熟するのを待つことが大切です。

とあった。それが,物事を成し遂げるために必要なことだ,と。御尤もである。でも,自分流に確かめてみたい。

まず,「幾」。

幺+幺(細い糸,わずか)+戈(ほこ)+人

の会意文字(既成の象形文字または指事文字を組み合わせて作られた漢字)。

人の首にもうわずか戈の刃が届きそうなさま

を意味し,もう少し,わずか,細かい,という意味を含む。もうわずかの幅をともなうことから,はしたの数(いくつ)を意味するようになった,という。そのため「幾」の意味は,

いくつ,いくばく。九以下のはしたの数を示す。(「幾人」「幾何(いくばく)」「幾年(いくとせ)」)
近い(幾百里)
ほとんど,もう少し(幾亡国)
こまかい兆し(「知幾」)
庶幾(こいねがわくば)

になる。「幾」と対比されるのが,「殆」。「殆」は,

あやうい,

という意味だが,

「歹(死ぬ)+台(鋤を用いて働いたり,口でものを言ったりして,人が動作することを示す)」

で,これ以上作為すれば死に至ること,動けば危ないさまをあらわすので,「幾」に近い,ほとんど,という意味があるが,その場合は,

(八,九分,という意味だが)危ない場合に使うようだ。

「幾」に「木」の加わった,「機」は,

「木+幾」で,木製の仕掛けの細かな部品。わずかな接触で噛み合う装置のこと。

という意味になる。だから,意味は,

はたおり機(「機杼」)
部品の組み立てでできた複雑なしかけ(「機械」)
ものごとの細かいしくみ(「機構」「枢機」)
きざし(「機会」「投機」)
人にわからないこまかい事柄(「機密」)
勘の良さや細かな心の動き(「機転」「機知」)

となる。では,「期」はどうか。

「期」の字の,「其」は,四角い箕を描いた象形文字。四角くきちんとした,の意を含む。箕の原字。

で,「期」は,

「月+其」で,月が,上弦→満月→下弦→朔を経て,きちんと戻り,太陽が,春分→夏至→秋分→冬至を経て正しく元の位置に戻ること,

を意味する。したがって,「期」の意味は,

取り決めた日時(「期間」)
予定する,必ずそうなると目当てを付ける(「期待」「期する」)
一定の時と所を約束して会う(「期会」)
一ヵ月,または一年

等々となる。

こう考えると,幾→機→期と,時間間隔が延びる,ということになる。ただ,『易経』に,

子曰く,幾を知るはそれ神か。君子は上交して諂わず,下交して瀆(けが)れず,それ幾を知れるか。幾は動の微かにして,吉のまず見(あら)われるものなり。君主は幾を見て作(た)ち,日を終うるを俟たず。

とある。兆しを見て,直ちに機と判別する,ということか。それは,日々の心構えになっているという意味なのだろう。

機に臨み変に応ずる

というが,「機」に臨む前に,「幾」に,兆しに気づいて即応できる構えができていなければ,対応できない。「危機」も「逸機」も,その意味では,結果であって, 「逸『幾』」の結果,「逸機」と「危機」になる。

「機根」という言葉があるらしいが,「気根」とも当てる。

仏教の教えを聞いて修業しうる素質
気力,根気

といった意味だが,「気」と「機」が交換しうる,というのが面白い。「気」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/412309183.html

で書いたが,

「万物は五行に還元せられ,五行は陰陽に還元せられ,陰陽は太極に,太極は無極に還元せられる」

という宇宙観の背景にあるのが,「気」となる。「気配」の「気」であり,「幾」にも通じる。その意味で,機と期と幾は,気に通じている,と言えなくもない。

「生とは気の集結であり,死とは気の解散」

とまで広げると,意味がなくなる。すでに

http://ppnetwork.seesaa.net/article/406738733.html

で,触れたことがあるが,

情報とは差異である。

人の気づかぬ差異を,「幾」と言い換えてもいい。それは,問題意識と置き換えてもいいかもしれない。問題意識とは,問題に着眼するのではない,常に,

こうなっているはず(という目指す)状態

を常態と見なしているから,その差異に目ざとい。それは,目標意識というよりは,目的意識の鮮明であるかどうかの差であるのだろう。

参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
高田真治・後藤基巳訳注『易経』(岩波文庫)






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 05:31| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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