2015年02月13日

なってございます。


店員が,陳列の商品について,客に,

「~になってございます」

と言っているのが耳に聞こえた。そう言えば,当事者として,店員から言われたことがある。テレビでも,似た言い回しをしていた。そういうことを教育するものがいるに違いない。

敬語・謙譲語・丁寧語について,詳しくはないが,

~になっています。

か,

~になっております,

というのが,たぶん,普通の言い回しではないか。別の敬語の乱れは,今に始まったことではなく,前回にも,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/413913243.html?1423687556

で触れたが,三田村鳶魚が,中里介山の『大菩薩峠』について,言いまわし,言葉遣いをさんざんにこき下ろしているが,たとえば,

「お銀がお君に向って、『まあ、お前、三味線がやれるの、それは宜かつた、わたしがお琴を調べるから其れをお前の三味線で合せて御覧』と言っている。気取った生活をしている人間なら、『三味線がやれるの』なんていう、野卑な言葉を遣うはずがない。しかしこれはもともと百姓なんだから、身分のない娘とすれば、そういうふうに砕けた方がいいかもしれないが、それにしてもこれは砕け過ぎていて、甲州の在方の娘らしくない。それほど砕けたかと思うと、『お琴を調べるから』という。お台所のお摺鉢がおがったりおがったり式だ。おの字の用例を近来の人はめちゃめちゃにしている。めちゃめちゃにしているのではない、御存知ないのであろう。すべてのことを差しおいて、この短い会話だけ眺めても、一方では琴におの字までつけるに拘らず、一方では『やれるの』と言う。一口にいう言葉のうちに、これだけ品位の違ったものが雑居している。百姓の娘が増長して、悪気取りをして、こういうむちゃくちゃをいったとすれば、それでいいかもしれないが、作者はそういう気持で書いたものとも思われない。」

といった具合である。話を元へ戻せば,「~になってございます」は,

「~になって」

を,

「~にさせていただいて」

とすれば,自然と,「おります」となったのではないか。敬語や,謙譲語は,相手との関係を反映している。万事が,フランクで,日常と非日常の区別がなくなった社会を反映しているのだから,別に取り立てて,取って付けたような丁寧語を使わなくても,

「~になっています」

ですむものを,どこの誰が教えいるのか知らないが,とんでもない無知をかえってさらけだしているようにしか見えない。

「ございます」というのは,

「御座+あり+マス」

で,gojaariから,aとjが抜けてゴザイとなり,丁寧語のマスが加わったもの,とされている。

ござる

も関連語だが,これは,

「御座+す」(おわす),「御座+ある」(ござる)

で,「おわす」の当て字,「御座す」を,字音で読み,動詞化の「アル」を付けたのが語源とされる。「御座」は,

「座」の尊敬語。貴人の席。

を指し,そこから,「いらっしゃること」をも指す。たとえば,「この処に御座をなされ」というように。だから,「茣蓙」は,イグサで編んだ敷物だが,もともと

「御+座+むしろ」のムシロを略したもので,「蓙(ござ)」を当てる。

「になって」

と,「その状態に成ってある」ことを,さらに,「御座います」と重ねているので,

「~になってございます」

は,

「になってなっています」

と言っているに等しい。しかも,自分の「している状態」に敬語を使っている形になる。丁寧も,度が過ぎると,馬鹿丁寧で,

慇懃無礼

に近いのではないか。前にも書いたが,「座」は,「坐」が,人二人+土」で,人々が地上に坐って,頭が高低で凸凹するさまを示していて,

「广+坐」

で,家の中で人の坐る場所であり,それに「御」をつけて,敬っている。

その意味では,

「~してございます。」

という言い回しも,考えようによっては,自分の動作を敬うカタチになっており,何だか,客に対して丁寧に行っているつもりが,そうしている自分に敬語をつけていることになり,一層客を馬鹿にしている言葉遣いに聞こえる。

自分の使いなれない言葉でも,語感的に異和感があるかどうかはわかるのではあるまいか。言われた通りに言っているなら,それはロボットであり,その先に来る図は,とても恐ろしい。自分で感じ,考えることをやめたら,何でもしかねないのではないか。言われたら,何でも,その通りにするのだろうか?

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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posted by Toshi at 05:38| Comment(0) | 言葉遣い | 更新情報をチェックする
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