野次
過日,国のトップが,国会の委員会で,野党の質問者に,関係のない「野次」をとばして話題になった。
一説によると,ネトウヨにとって,左翼,とか反日というのと同義で,「日教組」という罵りや揶揄が使われるそうだから,トップの心性が,ネトウヨとまったく地続きだということが,はしなくも露呈した,ということでもあるらしい。
ま,そんなことはどうでもよく,本題は,野次って何,ということ。
「野次」は,「弥次」とも当てる。「やじる」
やじること。また、その言葉。「やじを飛ばす」とか「やじの応酬」という使われ方をする。
という意味だが,「野次馬」の略,という意味もある。これは後回しにするとして,「やじる」を調べると,
(「やじ」を活用させた語)第三者が当事者の言動を,大勢に聞こえるように大声で非難し,からかう。また一方を応援するのに,他方の言動を嘲笑し,妨害する
とある。芝居の野次でも,国会での野次でも,外野が言う。直接言えないし言える立場にもないから,外野から揶揄する,悪態をつく。それを,第三者ではない当事者が,幾らでも直接言えるし,言う機会も場も与えられている当事者が,他方の相手に対し,当人が質問をしている最中に,話している相手とはまったく関係のない嘲笑や悪態をついたとしたら,それは,もう野次ではなく,本人への罵倒か悪口である。それは喧嘩を売っている,と社会通念上はみなすのではないか。
「野次」では,語源がみあたらないので,「やじる」を調べると,
「ヤジウマのヤジ+る」
で,騒ぎ立てる,からかいや非難の声をかける,という。では,ヤジウマの語源は,というと,
オヤジ馬からオが脱落したもの
という。
老いた馬が,若い馬の後にくっついてばかり,
の意とある。。転じて,
ただ騒ぐだけの人
となり,現代では,
物見高く見物していて騒ぎ立てる人々,
という意味になる。別説に,「ヤンチャ+馬」の変化したものというの語源説があるらしいが,それならば,仮名遣いが,ヤヂウマとなるはずであし,くっついて歩くだけという意も,「ヤンチャ」にはないので,「?」としている。
『大言海』では,「老牡馬」の「老」が落ちたものとある。
老馬は,役に立たないものにて,常に若き馬の尻につきて歩くより,「尻馬」とも呼ばれ,その尻馬から,雷同の意に転じた,
とある。『古語辞典』の「やぢうま」の項では,
「彌次馬」とも書くが,
近世,宿駅用意して,官用に供した馬,
とある。本来は,これだったのかもしれない。
で,「野次馬」を,辞書で調べると,
「馴らしにくい馬,悍馬」という意とともに,「老馬」として,「おやじうま」の略とも。
もうひとつ,
自分に関係ないことを人の後についてわけもなく騒ぎまわること,またそういうひと,
とある。
やはり,当事者が騒ぎ立てることは,野次とも野次馬とも関係ない暴言で,喧嘩を売っているに等しい。しかし相手がそれをたしなめた場合,普通,立場がなくなるはずである。それを,しれっと,さらに繰り返し,翌日も開き直るどころか,あさっての返答をして平然としている。こういうのを,ふつうは,頭がおかしい,とみなす。残念ながら,それがわが国のトップであり,日本という船の船長なのである。
野次の類語は,
半畳をいれる,
が最も近いが,これは,「半畳ヲ入レル」が語源。「半畳」は,昔の芝居小屋の敷物で,
芝居役者の演技に不満があるとき,見物人が半畳を投げ入れた,
ところから来ている。相撲で,横綱が負けると,座布団が飛ぶが,それがこの雰囲気に似ている。いまは,
非難の声を出す,
という意で使われる。この類語は,
からかう,
茶化す
冷やかす
揶揄
囃す
嘲る
玩ぶ
愚弄
という,相手にとって嬉しくない意味が含まれている。更に関連語を拾うと,
妄言
憎まれ口
悪口
悪態
妄言
雑言
というのが続く。
この雰囲気が腑に落ちない向きは,ためしに,友人にか,家族にか,相手と話している最中に,話と無関係な悪態で,茶々をいれてみるといい。別に「日教組」である必要はない,「パン」でも「小豆」でも「美人」でもいい,入れたときの相手の表情に,すべてが現れている。
コミュニケーションは,相手がどう返すかで,自分の言ったことの意味が決まる,
のである。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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