2015年02月28日

鶴亀鶴亀


森鴎外の『百物語』を読んでいたら,

「くわばらくわばら」,

と似た意味らしい使い方で,

「鶴亀鶴亀」,

という言い回しがあった。「くわばらくわばら」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/412748051.html

でふれた。まあ,雷除けのまじない,転じて,

災難がわが身に降りかかりませんように,

との意味で「くわばらくわばら」と唱えている。同様に,

不吉なことを見たり聞いたりしたときに縁起直しに言う語,

らしい,のである。そういえば,祖父母辺りが使っていたような記憶が,ぼんやりある程度で,ほぼ死語に近い。ただし,語源辞典には,出ていなかかった。俗語なのかもしれない。と思い,手元の古語辞典を調べたら,「つるかめ」として,

(鶴は千年亀は万年といわれ,めでたいものとされているところから)思わず不吉な言葉を発したり,縁起の悪いことがあったときに,災厄を祓うために言う言葉,

とあった。まあ,

縁起直しに言う言葉,

で,めでたいコトを並べて,厄払いというか,験直し,をしようというのだから,誰かの口癖ではないが,

「あぶない,あぶない」,

というところを,

「松竹梅,松竹梅」,

と言っているようなものだ。とすると,くわばらくわばら,とは少しニュアンスが違うようだ。類語に,

犬(いん)の子犬(いん)の子
とか
剣呑剣呑(けんのんけんのん)
とか

が挙げられているが,「犬(いん)の子犬(いん)の子」は,『広辞苑』によると,

邪を祓うために子供の額に「犬」の字を押すまじない
とか
子どもが怯えたときなどに唱える呪文

とあり,どちらかというと,「ちちんぷいぷい」に近いかもしれない。「ちちんぷいぷい」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/413416358.html?1422906722

で触れた。「剣呑」は,剣難(けんなん)の訛という。つまり,

「剣+難」

で,研によって引き起こされる難儀,

の意味である。「剣呑」は当て字らしい。だから,「剣難」「剣呑」は,

危ぶむこと,
あやういこと,

で,危険な様や不安な様を表す言葉。「剣呑、剣呑」と重ねて使う事で、意味を強調する,

という。しかし,「けんのんけんのん」と言うときは,まじないではないが,

物騒で近付きたくない時などに,「剣呑、剣呑」と言って回避するように使う,

という。まあ,「やばい」と言う意味の,もともとの意味に近いかもしれない。もちろん,

危険を承知で近付く時には「剣呑、剣呑」とは表現しない,

とあった。当たり前だろう。

鶴亀鶴亀,

くわばらくわばら,

犬の子犬の子

剣呑剣呑

と,危ない状況に直面したときでも,使い方の微妙な差があり,かつて日常語が豊かだった気がしてならない。いまなら,

やばい,

の一言で,片づけられてしまうだろう。

やばいについては,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/404842040.html

で触れた。「かわいい」「やばい」等々,ひとつのことばで,多様な意味を含ませるのは,より文脈に依存する傾向を強めた,と言えなくもない。

それは,日本語のもつ強い特性だから,やむを得ないと言えば言えるが,本来,言語は,現実性を丸めるものだ。丸めるとは,メタ化するということだ。メタ化力が劣るということは,ものごとを客観化できない,ということを意味する。それは,主観の中に,即自の中に埋もれることだ。究極の文脈依存は,大勢の流れるままに無関心に,何も考えずに,ちょうど,レミング鼠が集団移住をはじめ,そのマスの力によって,多く海に飛び落とされるケースがあり,集団自殺と誤解されてきたが,そういう集団圧力に翻弄される,と言うのに近い。

せっかく千年余,日本語の言語力を,漢字の吸収によって高めてきたのに,その漢字力を低下させて,またまた先祖がえりというか,言語をもたない時代のように,言語力が,退化している兆しでなければいいのたが。

「漢字(この表現自体,なかなか意味深だが)」との出会いについては,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/406094903.html

http://ppnetwork.seesaa.net/article/406309247.html

で触れた。

参考文献;
金田一京助・春彦監修『古語辞典』(三省堂)





今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:37| Comment(0) | 日本語 | 更新情報をチェックする
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