2015年03月12日

やさしい


やさしい,

は,

優しい
とも
易しい
とも
恥しい

とも当てる。語源は,

「痩さし」

である。「身も痩せるような恥ずかしい思い」である。

慎みがあって殊勝だ,

という意味らしい。転じて,

思いやりがあって,心遣いがある,意となり,さらに転じて,

わかりやすい,
扱いやすい,
処理しやすい,
たやすい,

と変化してきた,とある。『古語辞典』にも,

(人々の見る目が気になって)身も痩せ細る思いがする意,

が転じて,遠慮がちに,つつましく気を使う意,またそうした細やかな気遣いをつつましく気をつかう,意。

とあり,

身も細るようだ,肩身が狭い
恥ずかしい,面目ない,
気を遣ってつつましい,遠慮がちで控えめである

ときてから,やっと,

優美である
心憎い,
健気である
優雅である
温かく思いやり深い
平易である,

と意味が続く。その意味で,優しさとは,人に対しての気遣いではなく,そこに居ること自体を遠慮する,憚る気遣いという感じが強い。

漢字の「優」の字はどうかというと, 「人+憂」の,

「憂」の,原字は,人がしずしずとしなやかなしぐさをするさまをえがいた象形文字。「憂」は,それに心を添えた会意文字で,心が沈んだしなやかな姿を示す。で,「優」は,

しなやかにゆるゆるとふるまう俳優の姿,

の意で,

しなやかなしぐさを示す人(「俳優」)
やさしい(「優毅」)
しなやかなさま(「優美」)
すぐれている(「優秀」)
ゆたか(「優裕」)

といった意味を持つ。どうも,「優」には,

それを演ずる,

というニュアンスがある。そのせいか,「人+憂」には,

仮面をつけて舞う人

という意味があったという説もあるのである。つまり,本来,

俳優(わざおぎ)

であり,最も近い類語「情け」は,

「ナス(作・為)+ケ(見た目,接尾語)

で,

心遣いが目に見えるさま,

なのである。だから,ある意味,

人に対して,場に対して,心を砕く,

という意識なのではないか。それは,人に対する気遣いではなく,自分自身に対する意識,自分自身の中かから出ている意識,

なのではあるまいか。だから,

人に対する優しさは,

人を気づかうことではあるが,もともと自分をワンダウンさせて,気遣いを見せるふるまいである。それ(そういう自分の気づかうふるまい)が,ある程度相手に見えなければ,その下手に出ている,つまり,相手を上げていることが,相手に見えなければ,意味がない。だからこそ,それが度をこせば,

偽善

にもなる。だからこそ,それを「情けない」と感ずる。「情けない」とは,

思いやりがない,
無愛想である,
武骨である,
あさましい,
ふがいない,

という意味である。おそらく,身分社会を反映しているのだと思う。場を弁える,とは,多分そういうことだったのではなかろうか。

それにしても,この「やさしい」の変化の,内の憚る気持ちが,外に気遣いとなり,その見易さが,易しさへと変るというところに,人の哀しみがにじみ出ている気がしないでもない。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
竹内整一『「おのずから」と「みずから」』(春秋社)






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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posted by Toshi at 05:30| Comment(0) | 対人関係 | 更新情報をチェックする
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