マルチバース



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マルチバースとは,

Multiverse,

つまり,

多宇宙,並行宇宙,多元宇宙,

の意味である。本書の主題である。多宇宙については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/394437227.html

で触れたことがあるが,本書の原題は,『The Hidden Reality』である。これは,

「この本のタイトルを単数形にしたのは,そのすべての根底にある無類の,そして無類に強力なテーマを反映させるためだ。そのテーマとは,宇宙のメカニズムについての秘められた真実を暴く数学の力である。」

隠されていたのは,「宇宙の実像」(リアリティとルビを振っている)である。この著者の,

『エレガントな宇宙』
『宇宙を織りなすもの』

も以前に読んでいるが,今回は,格段に難しい。しかし,これが,現代宇宙論,現代物理学の最先端の総覧なのである。今日,ここまで,つまり,

「物理学はSF化しつつある」(監修者・竹内薫)

ところまで,至っているのである。

しかし,著者に言わせれば,これは,

「数学の導きに積極的に従ったことから起こっている。」

のである。まずは,マックスウェルの方程式。それは,光は,電磁波であり,秒速30万キロメートルと,示した。それを,アインシュタインが,その方程式を徹底し,すべてのものに対して,30万キロメートルを前提に相対性理論へとたどり着き,そのアインシュタインが自分の数学に従わず,ブラックホールや宇宙膨張を信じなかったが,一般相対性理論を突き詰めて,フリードマン,ルメートル,ジュヴァルツシルトらが,今日の宇宙論の道を開いた。シュレディンガーの方程式をつきつめたエヴェレットは,分子・原子・粒子の領域と見なされた量子力学を,すべての有形物に当てはまると考え,量子多宇宙へと導いた。つまり,今日の多宇宙論は,

「数学は宇宙の実像(リアリティ)という織物にしっかり縫い込まれているという考えに基づいている」

のである。それは,「コペルニクス革命」が,究極まできた,ということでもある。

地球は,太陽系の中心ではない,
太陽系は,銀河系の中心ではない,
銀河系は,この宇宙の中心ではない,
この宇宙は,宇宙秩序全体の中心ではない,

と。しかも,それは,「科学者が常にやっていることをやってきた」結果なのだ。つまり,

「データと観測を指針として,物質の基礎要素を説明し,その振る舞い,相互作用,そして展開を支配する様々な力を記述する,数学理論を定式化してきたのだ。そしておどろいたことに,これらの理論が切り開く道を地道にたどっていくと,次から次へと多宇宙の可能性に遭遇した。」

という結果なのだ。

本書の狙いを,著者は,冒頭のところで,

「そのテーマとは,私たちが知っているこの現実の向こうに別の現実がある可能性だ。本書はそのような可能性を探求し,並行宇宙の科学をくまなく巡るたびである。」

と述べる。多宇宙は,宇宙論にはとどまらない。我々のリアルと思う世界そのものをも,突き崩す。その意味では,まさに,

「隠された現実」

でもある。だから,マルチバースは,多世界でもある。なぜなら,

「並行宇宙が広大な時空の向こうにある」

だけでなく,

(量子多宇宙のように)「数ミリのところに浮かんでいる」

という世界でもあるからだ。

本書では,9の並行宇宙バージョンアップを紹介している。

パッチワークキルト多宇宙 我々はそのパッチの一つである
インフレーション多宇宙 永遠のインフレーションが泡宇宙のネットワークを生む。われわれはその泡宇宙の一つ。
プレーン多宇宙 ひも理論が行き着いた,一切れの食パンのような宇宙が並んでいる。
サイクリック多宇宙 プレーンワールド間の衝突がビッグバンをもたらす。いくつもの並行宇宙が始まりうる。
ランドスケープ多宇宙 ひも理論の余剰次元が,インフレーション宇宙とプレーン宇宙を合体させる。
量子多宇宙 確立派が具体化されるたびに世界が分岐して並行して存在する。
ホログラフィック多宇宙 この宇宙は,遠くの境界面で起きていることを映し出しているだけである。
シミュレーション多宇宙 宇宙のシミュレーションの中の世界でしかない。
究極の多宇宙 ありうる宇宙はすべて実在するという包括の宇宙

しかし,自分たちの宇宙の外の宇宙の存在を,検証可能なのだろうか。著者は,こう言う。

「ある宇宙を構成する宇宙は個々にはかなり違うかもしれないが,どれも共通の理論から出て来るものなので,すべてに共通する特徴があるものと思われる。私たちがアクセスできるこの一つの宇宙で私たちが行う測定によって,その特徴が見つからなければ,その他宇宙案が間違っていることがわかる。その特徴が確認されれば,とくにそれが今までにない特徴であれば,その提案は正しいという自信がふかまるだろう。」

あるいは,

「すべての宇宙に共通する特徴がなくても,物理特性の相関関係から立てられる種類の検証可能な予測もある。たとえば,…粒子リストに電子が含まれる宇宙すべてに,まだ検出されていない種類の粒子もあるのなら,私たちの宇宙で行われる実験でその粒子が発見されなければ,その多宇宙案は除外されるだろう。確認されれば,自信が深まる。」

あるいは,

「たとえば,ある多宇宙では場所によって宇宙定数の値にばらつきがあるかもしれない。しかししもし大半の宇宙が,ここで測定されたものと一致する値の宇宙定数をもつのなら,…当然その他宇宙に対する確信は高まる。」

さらに,

「ダメ押しとして,ある多宇宙内のほとんどの宇宙が,私たちの宇宙と違う特性をもっているとしても,私たちに利用できる診断法がもう一つある。人間原理を用いて,多宇宙のなかで私たちの生命体に適した宇宙だけを検討することが出来るのだ。この部分集合の大半が,私たちのものと一致する特性をもっているなら―つまり私たちが生きられる環境の宇宙のなかで,私たちの宇宙が典型的であるなら―この多宇宙に対する確信が生まれる。」

と。一般に科学的枠組みの想定では,三つの事柄,つまり,

第一は,関連する物理法則を記述する数学の方程式,
第二は,数学の方程式に出てくる自然定数すべての数値,
第三は,系の初期条件,

を特定する必要がある。しかし,「初期条件は,宇宙によって違う」ということを鑑みると,

「私たちが問うべきは,多宇宙のどこかに,私たちがここでみるものと一致する粒子配列,つまり初期条件をもつ宇宙があるかどうか」

ではないか,と著者は言うのである。

この,コペルニクス革命の果ての果てまで来ている物理学の現在地について,

「私たちが否が応でも並行宇宙の考えに導く数学の一部または全部が,宇宙の実像(リアリティ)に関係すると証明されれば,アインシュタインの有名な疑問,すなわち宇宙が今の性質を有しているのは,単にほかの宇宙はありえないからなのかどうかという問いに,決定的な答えが出る。『ノー』だ。私たちの宇宙は唯一のありうる宇宙ではない。」

と。

昔,宇宙が膨張するということを聞いたとき,その膨張する宇宙がある空間というのは何か,という素朴な疑問を持った。そう,いま,宇宙を容れる宇宙を論じていることでもあるのだ。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/416694519.html?1428004473

で,岸根卓郎『量子論から解き明かす「心の世界」と「あの世」 』を紹介したときの,「並行宇宙」は,このマルチバース論の中の「量子多宇宙」に,確かに,位置づけられている。

参考文献;
ブライアン・グリーン『隠れていた宇宙』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


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今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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