2015年04月07日

付人


付(き)人は,

付き添って世話をする人,

という意味で,芸能人や相撲取りの身の回りを世話する人というのが相場である。ウィキペディアでも,

「一般的に,徒弟制度やその流れを汲む育成システムが存在する組織の中にあって,序列・位・格などでより上位の者の側に付いて,その雑務などを務める者のことである。」

といい,内弟子とも呼ばれ,いわゆる「かばん持ち」などがこれにあたる,という。で,

「徒弟制度で人材育成が行われている職種の多くにおいては,“師匠”“先輩”“上司”などの上位の立場にある人間が,“弟子”(直弟子、孫弟子、弟弟子、練習生)または“部下”などの後進の育成を行い,“弟子”は付き人として“師匠”の仕事の補助や身の回りの世話をしながら,その仕事の手順・技法・作法・慣習などといったものを習得し,師弟関係を築き上げてゆく。また“師匠”が所用で外出したりそもそも外を回る仕事では、“弟子”もそれに付いてゆき,現地でも雑用や下働きなどをこなす。」

ということになる。これだけなら,別にブログのネタにはならないが,三田村鳶魚話の中に,

「火付盗賊改に限ったことでありますが,付人といって,軽輩の者を許して使う。」

というのがある。例の池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』では,

元盗賊の密偵,

を手先に使っているが,これを指している,と思われる。

「常に自分の側に置いて使うのみならず,牢屋の中へ入れて罪人の状態を探らせる」

などということをやったようである。当然巡邏する時にも付人は随行する。

「付人が悪い」

という諺が,三田村鳶魚の生きていた時代,大正前後にはあったらしいが,

「火付盗賊改の方の言葉から出たことのように思う。」

とあった。長谷川平蔵は,付人をうまく使ったようだが,中には二股を掛けたり,役を使ってうまいことしたりと,あまり評判がよろしくない向きもある。そんなところから,「付人が悪い」と出たのではないか,というのが三田村鳶魚の説である。

しかし,『大言海』には,「付人」として,

付き添い護る人,

とあり,

カシヅキ

モリヤク

という意味も添えられている。

カシズキは,

「傅き」

と当てる。意味は,

大切に養育すること,
世話をする人,介添え役

とある。ここで連想だが,

傅役

という言葉がある。

必ず,かつて貴人や武家では,世継ぎを育成する役として,傅役を付ける。鎌倉,室町あたりだと『乳母めのと』とその夫が該当するというが, 戦国期だと信長の傅役として,平手政秀が有名である。信長の乳兄弟は池田恒興だから,既にこの時代は,「乳母めのと」は傅役の意味から切り離されていたらしい。傅役との関係は,例えば,武田信玄の嫡子義信の傅役である飯富虎昌は,義信廃嫡時,処刑されている,というほど,両者のつながりは強い。さらに,江戸時代になると,「御三家」当主の「付家老」を傳役と呼んだりするようになるらしい。

傅役の始まりは律令制下の朝廷で,皇太子の指導を司どった役を「東宮傅(とうぐうふ)」と言う役職だったからである,と言われている。

で,ここからは想像だが,本来の付人は,傅く(かしずく)ひとから来ているのではないか。言い換えれば,傅役である。

付人が悪い

という諺(?)は,そうとらえれば意味がよく分かる。

三田村鳶魚さんの説に逆らうようだが,付人は,本来傅役の意味だったのではないか。それが,御三家の監視役「付家老」をそう呼ぶようになり,ついには,火付盗賊改の手先の元盗賊にまでの格に下がった。その意味では,現代の付人が,師匠の世話役,というのは,少し格が上がったのかもしれない。

「傅役」は,最近,

守役

と当てるようだ。護るから守るに代わり,傅く意味が消えているのが,面白い。

「守」は,「宀(屋根)+寸(て)」で,手で屋根の下にかこいこんでまもる,意味。ついでに,「護」の字の,「蒦(かく)」は,手で外から包むように持つことを意味する。それに「言」を添えて,「護」は,外から取り巻いて庇うこと。

なんとなく,気のせいか,「守」方が,過保護に見える。「傅」の,右側のつくり(音はフ)は,「専」ではない。「物に手をピタリとあてがう,助ける」の意で,「補」(ぴたりと布を当てる)「敷」(ぴたりと面に当てる)「膚」(ぴたりと身体に引っ付いた肌)と同系,とある。「傅」は,それに「人」を加えて,

ピタリと付き添うおもり役,

とある。この字の方が,付人に近い。

参考文献;
三田村鳶魚『捕物の話 鳶魚江戸ばなし』(Kindle版)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 05:50| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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