2015年04月16日

燕合わせ


燕合わせ

というのは,

燕算用(つばめさんよう)とも言う。

合わせ数えること,
合計すること,

という意味である。略して,「つばめ」「燕算」とも言う。

帳尻

というのが類語である。帳尻を合わせる,というと,

帳簿に記載した事柄の末尾が合う,

という意味だから,転じて,

事の顛末,
話の辻褄,

を合わせるとも言う。

古語辞典を見ると,燕算用とは,

収支の決算,
しめ,

として,井原西鶴『世間胸算用』から,

「毎月の胸算用せぬによつて,燕の合わぬ事ぞかし」

という用例が載っている。ただ語源がわからない。『大言海』には載っていないので,江戸時代の用法かもしれないが,それにしては,『広辞苑』に載っているのが面白い。

算用

というのは,

数を計算すること,
勘定,
あるいは,
支払,
精算,

を意味する。帳尻の合うか合わないかは,ここにはなく,ただ計算する,というところまでを指す,と言っていい。

ただ,古語辞典をみると,「燕算用」の略,「燕」そのものも,

合算すること,しめ,決算,

という意味を表したらしく,その用例として,

「(絶句の)三の句で転換するほどに,一・二の句と断ちたるやうなれども,四の句で燕を合するほどに,よく一・二と相続する也」

とあるので,合算して,帳尻が合う,というニュアンスがなくもない。ここでは,燕合わせは,喩えとして,帳尻,というか,平仄(ひょうそく)が合う,という意味に拡げられている。

平仄とは,

中国語における漢字音を,中古音の調類(声調による類別)にしたがって大きく二種類に分けたもの。漢詩で重視される発音上のルール。平は平声,仄は上声・去声・入声であり,漢詩作法における,平字,仄の字の韻律に基づく排列のきまり,

を指す。日本では一般に「平仄を整える」という使われ方をし,ほぼ「てにをはを整える」の意味で使う。「平仄」をつじつまとか条理という喩として使う場合は,「平仄が合わない」意味で使う。

その意味では,上記例は,「合算」という意味の「燕」ではなく,「辻褄」という意味の「燕」に拡大されている。

結末を付ける,という意味に広げれば,けりをつける,に似ていなくもない。「けり」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/404290600.html

で書いたが,「けり」を付ける,つまり,「~しける」と,「けり」をつけることで,そう語っていることが,語っているいまの時点から見て,それが,

終ったこと

過去のこと

として,

それを終わらせる,

ということだから,帳尻を合わせる,とは微妙に違うが,決着を付ける意味では重ならなくもない…。

それにしても,「燕」は何から来たのだろう。

日本語「つばめ」の語源は,二つあるらしい。

「チュバ(鳴き声)+メ(小鳥を表す接尾語)」

つまり,鳴き声を発祥とする説。ツバクラ,ツバクラメも同類。いまひとつは,

「ツバ,ツマ(軒端)+メ」

軒端に巣をつくるコトり,という意味を発祥とする説,

とがある。漢字の「燕」を探ると,燕を描いた象形文字というので,ここから「燕合わせ」の意味が見えそうにない。敢えて妄想すると,ツバメは,かつては,電線に列をなして止まって居た。ああやって列をなす鳥は,他にあまりないので,それを数えるのをさしたのかもしれない,と妄想をする。鯖を読むというのが,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/414131601.html

で触れたように,

鯖は大量に捕れるが鮮度の低下も早いいので,時間を惜しんで鯖の数量を目分量でざっと数え,急いで売りさばいた,

という謂れからきていることをみると,何となく,燕の生態から来ているような気がしてならない。まあ億説だ。さらに妄説を続ければ,音韻と音感から,たとえば,「つばめ」と「つぼむ」の転訛のような変化かもしれない。

参考文献;
金田一京助・春彦監修『古語辞典』(三省堂)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:20| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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