2015年04月17日

濫妨


濫妨

乱暴

とは違う。乱暴は,

荒々しくふるまうこと,
粗雑であること,

という意味であるが,濫妨は,

乱妨

とも表記し,

荒らしまわること,
略奪すること,

という意味になる。

どうも,元来は,戦国時代の,乱捕,乱取,

敵地に乱入して略奪すること,

という意味である。

乱妨取り

とも言い。

戦国時代から安土桃山時代にかけて,戦いの後で兵士が人や物を掠奪した行為を指す。当時の兵は農民が多く,食料の配給や戦地での掠奪目的の自主的参加が見られた。人狩りの戦利品が戦後,市に出され,大名もそれら乱暴狼藉を黙過したり,褒美として付近を自由に乱取りさせた,

という。それらの狼藉は黙許というか,悪事ではないとされていたようである。ルイス・フロイスは,

「日本での戦は,ほとんどいつも,小麦や米や大麦を奪うためのものである」

と書いていて,戦国期の日常的に荒廃した田畑が,一層そういう傾向を助長したとみられる。戦国期の人身売買の記録もあり,人取り(生捕り)は,多く,身代金目当てか,売買であり,武田信玄の軍による大掛かりな人取りについて,

「男女生取りなされて,ことごとく甲州へ引越し申し候,さるほどに,二貫,三貫,五貫,十貫にても,身類ある人は承け申し候」

という記事もある。また謙信も,関東に攻め込んだ折,攻め落とした小田城下で,人の売買をしていたともある。

すでに江戸時代に入る,大阪の陣を描いた,

「大坂夏の陣図屏風」

にすら,徳川方の雑兵による大規模な乱妨取りが,大坂市中で行なわれている様子が克明に描かれている。

乱取は,常態であったらしく,『甲陽軍鑑』には,桶狭間の合戦について,緒戦で織田方の砦を落としたため,戦いに勝ったと思った今川の兵が略奪に夢中になっている中,織田軍が味方のように入り交じり,義元の首を取った,

という説明があり(現に「今川軍が略奪し、油断していた」と徳川家康の証言もあり),今川方が略奪に夢中になっている隙を織田方に突かれたのが敗因,という説があるようである。

切り取り(斬取)強盗武士の習い

という諺は,こういうことを背景にしているに違いない。諺の説明には,

人を殺して金品を奪ったり,強盗したりすることは武士には珍しくないことである。
零落した武士が生計のために言った口実。

とある。口実かどうかは知らず,切り取って領地を増やす,ということを含めれば,武家のありようを,そのままの表していると受け取っていい。

何せ,武器を持っているのだから,強いに違いない。しかも,江戸時代になると,法度で,刀と脇差の二本をさすことは,士に限ったのだが,面白いのは,その寸法が定められていて,

寛永十五年(1638)には,長刀が二尺八寸以上,大脇差が一尺七寸以上,

となっていたのに,

寛文十年(1670)には,刀が二尺八寸九分まで,大脇差が一尺八寸,

と長くなっていく。普通は,

刀は,二尺以上,
大脇差は,一尺九寸以下,
中脇差は,一尺七寸九分まで,
小脇差は,一尺以上,

となっていたらしい。二尺となれば,刀と言っていた。どうもこの背景には,

長脇差,

いわゆる長どす,というやつで,例のやくざ者がさすようなもののことだ。これが,だんだん伸びて,長脇差だか刀だかの区別のつかない,二尺以上のものが出てくる。極端になると,

二尺五寸以上の脇差,

をさすのまで出てくる。どうも,その走りは,旗本らしい。二本さして出歩くかわりに,長脇差一本で出歩くようになり,二本差しの手前,それを長くして体裁をとった,ということらしく,二尺以上の長脇差,二尺五寸の長脇差をさすものさえ現れた。それを,

旗本流,

と異名をつけられたりした,という。それがいわゆる長脇差(長どす)になっていったものらしい。二本をさせないので,寸法の長い脇差をさした。幕府も,

長脇差を帯はし,目立候衣服を着し,不届之所業に及び,

云々と,度々禁制をだしたらしい。江戸時代も中期以降,男伊達を見せる場のなくなったサムライがヤクザ化し,ヤクザがサムライ化してゆく経緯は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163232.html

で触れた。もともとは,農民から発祥したのが武士だから,かつては農民も,刀を皆さしていたのかもしれない。しかし,

「一体刀を帯しているということは,腰が重くって立ち居にもうるさい」

ことになる。自然おごそかににふるまわざるを得ない。天和三年(1683)に,町人は一切刀をさしてはならないことになったが,一本であれ二本であれ,あんなものをさしていては,仕事にはならない。

「本当の閑人だから,刀をさして威張ってみる気になれた」

ものに違いない,とは名言である。

参考文献;
三田村鳶魚『捕物の話 鳶魚江戸ばなし』(Kindle版)
藤木久志『戦国の村を行く』(朝日新聞社)







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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