2015年04月20日

嘱託


無知をさらけだすようだが,ふつう,「嘱託」は,

ショクタク

と読む。「属託」とも当てるらしい。まあ,そこまでは,いい。で意味は,

頼むこと。仕事を頼んで任せること。委嘱。
正式の雇用関係や任命によらないで、ある業務に従事することを依頼すること。また、その依頼された人やその身分。

という意味である。嘱託殺人とか嘱託社員というのが今の使われ方である。類語としては,

委嘱,委任,付託,負託,寄託,委託,

といったところであろうか。しかし,「嘱託」を,

ソクタク,

と読み,同じく「属託」という字も当てて,

ゾクタク

とも読むらしい。意味は,

報酬を出して,味方になることを依頼すること,
懸賞金で罪人を捜すこと,また,その賞金,

である。『広辞苑』には出ているが,他の小さな国語辞典には出ていない。ちなみに,『大言海』を見ると,

「ソクタク」は,

懸賞にて罪人を検挙すること。賞格。募格。犒(こう)金。

とあり(因みに「格」は止めるという意味があり,「犒」は労う意味があるので,推測できる),それと別項で,

「ゾクタク」があり,

又,しょくたく。頼み委ぬること。また其れを受けたる人

とある。すでに,「しょくたく」の意味が載っている。しかし,『古語辞典』となると,「そくたく」しか載っていない。つまり,

自己の利益のために報酬を払って頼むこと。またその報酬。
懸賞金を付けた罪人を探すこと。またその懸賞金。

である。語源がわからないので,あてずっぽうだが,たぶん,報酬を払って人に何かを頼むことを,

そくたく

といったのであろう。懸賞金を付けて,罪人を探すのは,その派生として生まれたのではあるまいか。江戸時代,「嘱託(懸賞金)」をかけて,たとえ同類でも訴え出れば罪を問わないという立札(嘱託札)を立てた,という話がある。

横道にそれるが,そういう立札を立てても,誰も訴え出るもの(「返り訴人」といったらしい。敵方から味方になるのを「返り忠」というらしい。『隠し砦の三悪人』で,「裏切り御免」と藤田進が叫んでいたやつである。)がない,そこで,所司代をつとめていた板倉周防守重宗という人のアイデアで,その立札の横に,

「ここに立ててある嘱託の金子は余り少ないから申し出ないが,これを倍にしてくださるなら,同類のありかをもうしあげましょう。」

と意味のことを描いた立札を,平仮名書きで立てた,という。それを見た仲間が,誰かに先にやられたらそいつだけ助かる,と疑心暗鬼にかられて,早速訴人してきた,という。なかなか江戸時代の為政者も悪知恵がはたらく。

閑話休題。

漢字から調べてみるとすると,

「嘱(囑)」の「属(屬)は,

ショク(漢音)
とも
ソク(呉音)

とも読むが,

ぴったりくっついてはなれない,

意で,「口+屬」は,相手の耳に口をくっつけて言い含めること,という意味になる。で,

言い含める,
とか
いいつける,こうしてもらいたいと押し付ける,

という意味を持つ。「言葉で何かを(強引に)伝える」といったニュアンスであろうか。「託」は,「乇」が,

植物の種が一所に定着して芽をふいたさまを表す会意文字,

で,一所に定着するという意味があり,「宀(やね)」を付けると,家を立ててそこに定着する,と「宅」となる。「言+乇」で,「託」は,

ことばで頼んでひとところにあずけて定着させること,

という意味になる。で,

まかせる,
とか
かこつける,

という意味になる。こうみると,「嘱託」の意味は,「懸賞」とか「報酬」というニュアンスはなく「しょくたく」と使っている,今の使い方の方が,漢字のもつ意味からは自然に見える。用例を見る限り,

賄賂,嘱託に耽り(源平盛衰記),
とか
嘱託の高札ありといえども(切支丹退治記),

と,そんなに遡らず,いちばん「そくたく」がポピュラーだったのは,「嘱託札」が立てられた江戸時代のようだ。しかし,『大言海』には,「しょくたく」が見えているのだから,

「頼む」

というニュアンスと,

「報酬」

という意味だけが,濾されて残った,ということのようだ。ひねくれた言い方をすると,金で誘って「返り訴人」を雇う,「訴人」になる委託をする,ということの,言葉のロンダリングに見えなくもない。

参考文献;
三田村鳶魚『江戸の盗賊 鳶魚江戸ばなし』(Kindle版)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
大槻文彦『大言海』(冨山房)







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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