2015年04月29日
横板
横板に飴,
という言い方を,岡本綺堂がしている。いろんな人が,取り上げているので,いまさらめくが,
立板に水,
という言い方はする。因みに,立板というのは,
立てかけてある板,
という意味の他に,
牛車の車箱の両側をそう称する,
木目を垂直あるいはそれに近く通るように用いた板,要は,縦に木目の通った板,
という意味がある。でもって,「立板に水」とは,
弁舌すらすらとしてよどみのないさま,
とあり,「横板に雨だれ」が対で載っている。横板とは,
木目を横にして用いる板,
後坐(能舞台の正面奥の部分),能舞台で囃子方の座の後,鏡板の前の称,床板が横に張ってあるところからいう,
で,「横板に雨垂れ」は,
つかえながらする下手な弁舌,
つまり,立板に水の逆。そのほかに,
横板に泥,
横板に餅,
という言い方もあるらしい。言ってみると,喩えやすい言い方なので,幾らでも,バリエーションはできる。「立板に水」も,
立板に玉(豆),
という言い方もあるらしい。あるいは,
横板に飴を抛付くるが如き
という言い方もあるようだ。確かに,飴は,つっかえつっかえ落ちるだろう。ま,使いやすい,というか言い替えやすい言い回しには違いない。
立板,の「立」は,「縦」の意で,鍵は,木目にある。本当を言えば,縦に置いても,横に置いても,そんなに変わらないから,
立板に飴,
といってもいいところを,「横板」ということで,木目に逆らうという含意がある。それがわからないと,たぶん,面白さが半減するのかもしれない。
そういえば,昔,編集者の時代,紙を注文するとき,
(紙の)タテ目とヨコ目
ということを意識していたはずだ,ということを思い出した。
「紙はひとつのライン上で製造され,一度巻き取られる。巻き取られたロールの状態では常に紙の目の方向は一定だが,シート状(平判)に紙を切る時に縦横どちらの向きでカットするかによって縦目と横目の違いがでてくる。紙のタテ目は,紙の長い方の辺が紙の目に平行している紙で,A判タテ目はAT,B判タテ目はBTと表示する。紙のヨコ目は,紙の短い方の辺が紙の目に平行している紙で,A判ヨコ目はAY、B判ヨコ目はBYと表示する。」
ということらしい。まあ,その当時,そこまで明確に知っていたわけではないが,ここでも,タテヨコが生きている。。
閑話休題。
しかし,ここで言っているのは,立板,横板は,滑舌のことではなく,喋るスピードのことである。
しかし,思うのだが,どんなに饒舌な人でも,どんなに天才的な詐欺師でも,
不意打ちには,弱い,
あるいは,
初めてのことを話すときは,遅くなる,
らしい。これについては,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/409638012.html
で書いた。だから,通常,
いつも,考えていることを話しているか,
いつも,そのことについて,しゃべり慣れているか,
何回も話したことがあるか,
何度もこう言おう,ああ言おうと,反芻していることか,
等々という以外,その場で,考えながら,喋らざるを得ない状況だと,滑らかにはいかない。だから詐欺師には,
こちらから質問をする,
のが有効だと,言われるのである。
余程頭の回転が速い人でない限り,話すスピードは,意識の流れの1/20~1/30に遅くなるので,どうしても,ある程度,そのことを言葉に置き換えるのに時間がかかる。心の中から,言葉を紡ぐには,言語に置き換えるためのタイムラグが,コンマ何秒でもあり,
立板に水,
とはいかない。その言語力,というか,語彙が多ければ,速いかと言うと,
かわいい,
やばい,
で済まさず,そのことに的確な言葉を選択しようとするので,逆に,テンポは落ちる。それが当たり前で,だから,話していることが信用できるのである。
口車,
とか
口八丁,
とか
口巧者,
というのは,
立板に水,
とか
一瀉千里,
とはだいぶ違う,と思う。
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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