2015年05月17日

頭を抱える


頭を抱えるというのは,

良い考えが浮かばす,考え込む,

という意味だ。しかし,同じ意味で,

胸を抱える,

という言い回しを見た(岡本綺堂『半七捕物帳』)。思えば,考えたら,思い悩むのは,胸なのだから,

胸を抱える,

と言ってもおかしくはない。

「あたま」の語源は,

「当て+間」

で,鍼灸点のヒヨメキから,頭頂のことを意味し,のちに頭全体を指すようになった,と言うのが,ひとつの説。いまひとつは,

「ア(天・最上部)+タマ(丸い部分)」

が語源と言う説。江戸期に,カシラに代わって使われるようになった。では「カシラ」の語源は,というと,三説ある。

ひとつは,人間の肉体の上部を言う,「カ(上)+シロ(代)」。

いまひとつは,髪の毛の生えている人体部分を言う,「カ(髪)+シロ(代)」。

もうひとつは,中国語『頁』の別音katの転kasiに,諧音ラが加わったもの。

で,漢字の「頭」の字を調べると,「頭」の,「豆」は,

たかつき(食物を盛る脚付きの台)を描いた象形で,じっとひとところに立つ,

という意を含む(のちに,たかつきの形ををした豆の意に転用)。「頁」は,

人間の頭を大きく描き,その下に小さく両足を添えた形を描いた象形文字,

で,「頭」「額」「顎」「顔」等々の字に,あたまを示す意符として含まれている。そこで,「頭」は,

「頁(あたま)+豆(じっとたつたかつき)」

で,真っ直ぐ立っているあたま。

では,「胸」の語源はというと,

「ム(身)+ネ(幹)」

で,人の根幹をなす部分である。首と腹の間の前面。心,思い,の意。

「胸」の字は,もと「匈」と書く。「凶」の字の,「凵」印がくぼんだ穴を表し,「×」印はその中にはまり込んで交差してもがくことを表す。「匈」は,空洞を外から包んださま。胸は,

「肉+匈」

で,中に空洞を包み込んだむね。肺のある胸郭は,うつろな穴である,とある。

で,両者の使われ方をみると,

頭は,

頭が上がらない,
頭が固い,
頭が切れる,
頭が下がる,
頭ごなし,
頭でっかち,
頭にくる
頭に浮かぶ,
頭の中が白くなる,
頭を絞る,
頭を悩ます,
頭をはねる,
頭を冷やす,

とある。しかし,胸の方は,

胸が熱くなる,
胸が痛む,
胸が躍る,
胸が焦がれる,
胸が裂ける,
胸が騒ぐ,
胸がすく,
胸がつかえる,
胸が潰れる,
胸が詰まる,
胸がとどろく,
胸がふさがる
胸が悪い,
胸に当たる,
胸に余る,
胸に一物,
胸に納める,
胸に刻む,
胸にこたえる,
胸に据えかねる,
胸に迫る,
胸に手を置く,
胸を痛める,
胸を打つ,
胸を躍らせる,
胸を借りる,
胸を撫で下ろす

等々とあって,頭が思考なら,胸は,心や心立て,器量と言った人の心情,心意気まで含む。

そう考えると,頭を抱えるは,思考の煮詰まった感じだが,胸を抱えるというと,もっと広く,勘働きも含めた広い思いが行き詰まった,という感じになる。

頭を抱える,

よりは,

胸を抱える,

ほうが,抱えているものの方が深刻な気がするが,いかかであろうか。別に大きさや重さで比較すべきものではないだろうが,それが解けたときは,胸がほどけた方が,気が軽く,視界がより開ける気がしてならない。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)





今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

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