2015年05月19日
のたうつ
「のたうつ」は,
ヌタウツの転,
とある。
苦しみもがいて転がりまわる,
のたくる,
という意味である。しかし,『大言海』をみると,「のたうつ」は載っていなくて,「ぬたうつ」で,
「沼田打つ」
と当てて,
「うつは,寝がえりなどする意。またヌタラウツとも云う」
とあって,
猪,草を集めたる上に転がり臥す,賻顚(輾転)。(かるもかくの条,見合わすべし)
人にも言いて,ぬたくる,のたくる,のたうつ,もがく,
とある。人に使うのは転用したものらしい。で,
「かるもかく」
を調べると,「かるも」は,
枯物(かるもの)の略かという,
とあって,枯草を当てる。で,「かるもかく」は,
枯草掻
と当てて,
枯草(かるも)を掻き集めて臥す。猪の眠る時することなり,かるもの床,臥猪(ふすい)の床などと言いて,心安く眠るものなれば,和歌に多くその意に寄せて言う。
とあって,
かるもかき,臥猪の床の寝(い)を安み,さこそ寝ざらめ,かからずもがな,
かるもかく,猪の名の原の仮枕,さても寝られぬ月をみるかな,
の例が載っている。
で,(『大言海』では)「ぬたくる」は,「ぬたうつ」の転とあり,意味として,
うねり転がる。もがきまわる。のたくる。
と,はや,もがくの意味に転じているが,併せて,
塗りつける,筆に任せて書く,
の意がある。この使い方は,いまも,確かにある。ただ,
「ぬた」
は,「沼」で,「沼田」を当て,ぬまた(沼田)に同じとある。『古語辞典』で,「ぬた」を見ると,沼地の意味の他に,
泥,泥土,
と併せて,
魚肉・野菜などを酢味噌であえたもの,
とあり,その他,
しまりがなく,だらしないさま,
ぐうたら,
とある。どうやら,「のたうち」は,
蜿うち
とか
蜿くる
とも当てたりするが,本来は,猪の寝姿を指し,どうやらゆったり眠る,と言うニュアンスが強かったのが,そこに,外見の,というかあまり見栄えの良くない様子から,だらしないに,転じた,というのは推測がつく。酢味噌和えの「ぬた」も,「ぬた(沼)」のイメージからの転用なのもまあ,想像がつく,しかし,のたうつの,
苦しみ,もがきまわる,
という意味はどこから来たのだろう。語源を調べると,
「ノタル(くるしみ)+打つ」
とある。しかし,ヌタウツから来ているのだとすると,この語源は,僭越ながら,ちと,疑わしい。
むしろ,「のた(沼)」と輾転との関連から,
沼にはまってもがく,
という意味と重ねたのではないか,というほうが,言語感覚に近い。『古語辞典』には,
ぬたうち
にだらしない意味はあっても,もがき苦しむ意味はない。で,「ぬたうち」の次項に,
「ぬたくり」
があり,そこに,
泥の中をくねりまわる,
とある。猪と沼が,ここではつながっている。因みに,『語源辞典』には,併せて,
「のたりのたり」
の語源は,「ゆるくうねる様子の擬態語」とあるが,「うねる」の状態を指したものだろう。『古語辞典』に,
のたり
は,ゆったりしたさま,とあり,「のたり」は,別項で,
のたくる,這う,
とある。「のたり」は,とすると,
「のたり」
と
「ぬたり」
がどこかで,混用されたのではないか,そしてもがき苦しむ様子と重ねあわされた,と想像する。ま,素人の勝手な妄想だが。言葉は,面白い。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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