2015年05月30日

わかる


山鳥重『「わかる」とはどういうことか』を読む。

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正直に言うと,群盲象を撫ぜるではないが,さまざまな切り口を枚挙してもらったわりに,

分かる,

ということが,なかなか分かった気にならなかった。というのも,わかる,ということには,知情意,というか,

知覚する,
感じる,
考える,

等々という領域と,「わかる」という領域とが,ベン図を例に言うなら,「わかる」という円と,その他の円がさまざまな重なり具合をしていて,たとえば,そもそも感受しなければ,わかるに至らないし,考えなければ,わかるということが必要ない,というように,きっちり境界を区分けできないせいかもしれない。さらに,

記憶する,
覚える,
学ぶ,
理解する,
経験する,
コトバにする,

等々の円とも,微妙に重なりあっている。

だが,僕のイメージするわかると,著者のそれとは,微かなずれがあった気がする。たとえば,著者は,「『わかる』の第一歩」として,

「単純なことですが,記憶にないことはわからないのです。言葉(記号音)の内容(記憶心像)を形成しておかないと,相手の言葉を受け取っても,心には何も喚起されません。(中略)「わかる」は言葉の記憶から始まります。そして言葉の記憶とは…名前の『意味の記憶』です。」

と述べる。不遜ながら,ああ,著者の「わかる」とは,そういうレベルのことを言っているのか,という幻滅がまず生じた。僕の知りたいのは,

腑に落ちる
とか,
納得する,
とか,
理解する,

という「わかる」であり,言葉の意味が了解できるということは,蚊帳の外にあった。本書の最後で,「わかる」のパターンを,

重ね合わせ的理解

発見的理解

の二つがあり,前者は,自分の頭にあるもの(モデル,知識,経験,感情,感覚等々)と重ねあわせること,であり,もうひとつは,答えが自分の外にあるもので,既知の答はなく,「自分で新しく発見していく」ものという。

僭越だが,間違っているのではないか。そもそも理解を,学習を,考えたとき,この二分法にしてしまうと,答えが外であろうと中であろうと,自分の中で考えて,

一つの答をひねり出し,

ああこうだったのだ,と納得するシチュエーションは,想定からはずされてしまう。答えが,外にあろうと,自分で考える操作は,常に,

新しい発見,

なのであって,それがアインシュタインの発見であろうと,幼児の発見であろうと,レベル差はあっても,

わかる,

ということの構造は同じである。あるいは,アルキメデスが,「Eureka」(「ユーリカ!」「分かったぞ!」)と叫びながら裸で通りに飛び出したというのもそれである。それを構造化するのが,

「わかるとはどういうことか」

の答でなくてはならない。著者は,「わかる」の土俵を,取り違えているようにしか,ぼくには見えない。たとえば,

「わかる」のわかり方を,

全体像がわかる,
整理するとわかる,
筋が通るとわかる,
空間関係がわかる,
仕組みがわかる,
規則に合えばわかる,

を類別しているが,その「わかった」というときを,

直感的に「わかる」
まとまることで「わかる」
ルールを発見することで「わかる」
置き換えることで「わかる」

と整理する。しかし,それは「わかる」ということの衣装が整理されているのであって,「わかる」ということ自体には踏み込めていない気がしてならない。この類別に当てはめる「わかる」は,

わかったのではなく知識をえた,

だけだ。では,なぜ,知識を得ると,

わかる,

のかが,踏み込めなければ,「わかる」という巨象の皮膚を撫ぜたにすぎない。吉本隆明は,

知ることは,超えることの前提である。

という言い方をした。だから,わかることの手段として,知をえることは,大事には違いないが,なぜ,知を得ると,わかるのか。

僕の億説に過ぎないが,わかる,ということは,

新しいパースペクティブ,

を得ることなのだと思う。

新しい視界,

と言い換えてもいい。メタ・ポジションを手にする,ということだ。それは,

新たな地平に立つ。

ということになる。だから,視界が開ける。よく,わかった瞬間,

頭にランプがともる,

というイラストが描かれるのは,

そのサーチライトで照らす

ことで,いままで照らされていなかったところに光が当たり,新たに見えてくることがあるだ。そこを詳らかにしてほしかった。

参考文献;
山鳥重『「わかる」とはどういうことか』(ちくま新書)







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:19| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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