2015年06月08日

しな,すがり,すがら


行きしな,の「しな」

道すがら,の「すがら」

通りすがり,の「すがり」

通りがかり,の「かかり」

行きがかり,の「かかり」

行きがけ,の「かけ」

が気になってきた。

端緒は,「道すがら」と,「通りすがり」,それとの連想で,「行きしな」の違いは何だろう,というところから始まった。

まずは「行きしな」「帰りしな」の「しな」。辞書によると(『広辞苑』),

「しな」は,接尾語,

とあり,「行きしな」は,

行く時のついで,行きがけ,

とある。語源的にも,「しな」は,「しに(途中)」の音韻変化,とあり,

~の場合,~のおり,~ついで,

という意味,とある。しかし『古語辞典』によると,「しな」は,

しだ(時)の転,

とあり,「しだ」には,「さだ」と同根として,

「行きしな」「帰りしな」などのシナの古語,

とあり,「とき」という意味になる。因みに,「さだ」は,

シダの母音交換形,

で,時機,盛りの年齢,という意味とある。ということで,「行きしな」は,

行く途中,行く道々,

といった意味になる。では,「道すがら」とどう違うのか,辞書(『広辞苑』)には,

道を通りながら,歩きながら,みちみち,途中,

という意味とある。『大言海』では,

行く路すがら,

とあるので,通り過ぎる,というニュアンスが強いのかもしれない。語源的には,

「過ぎ+ながら」の略,

とあり,通りすごしていく,という意味になる。「すがら」は,

途切れることなくずっと,

という時間経過を示していて,

名月や池をめぐりと夜もすがら,

で,それが空間的に転用されと,

道すがら,

になったと,考えられる,と。当然,

途中,

という意味合いが出てくる,という感じである。「行きしな」には,

途中で立ち止まるとか,立ち寄る,

というニュアンスがあるが,「道すがら」には,

みちみち,眺めた,

という感じなのではないか。

では,「通りすがり」は,というと,意味は,

たまたま通り合わせて,通るついで,通りがけ,

という意味になる。「すがり」は,ここは(どこにも載っていなかったので)想像だが,

過ぐ+り(ある動作が継続中であることを表す助詞),

で,

ちょうど(たまたま)通り過ぎつつある,

という意味なのではないか。そこでの出会いが,たまたまなのは同じだが,

道すがら,には何か(そのことに)意味が主体側に見え,
通りすがり,には行き過ぎていく側には(袖擦り合う程度で,他に)何の意味も見出さない,

というニュアンスがある気がする。

「通りががり」は,

通りかかったこと,道のついで,通りがけ,

という意味だが,「かかる」は,語源的には,

「二物に渡してつなぐ」

という意味があり,

「カク・カカ・カケ(渡して繋ぐ)+ル」

で,通りすがりに較べると,少し,

タイミングがあった,

という意味が含まれている気がする。「行きがけ」は,その意味では,

行く途中,行くついで,

という意味よりは,

行こうとするとき,

で,「かけ」は,

(他の動詞の連用形につき)着手して中途まで行く,

という意味になり,行こうとする,そのついでに,

「行きがけの駄賃」

というように,自分からかかわっていく,という意味が強くなる。因みに,「行きがけの駄賃」は,

「馬子が荷を受け取りに行く途中の空馬に別の荷物を載せて駄賃をもらい,こっそり私利を得た」

の意味で,何かをするついでに他のことをする,という意味になる。さらに,「行きがかり」では,

行くついで,

というよりも,そこから遁れられない,という意味で,

既に物事が進行しつつあって,あるいは関わりができていて,

それまでのいきさつから深く立ち入ってしまっている,

ということになる。

その意味で,「途中」という意味を持ちながら,「行きしな」「道すがら」「通りがかり」「通りすがり」「行きがけ」「行きががり」は,それぞれ関わりの経緯の有無,を微妙に言い表している。

ついでながら,「行」「道」「通」の字の当て方にも,意味があるのかもしれない。

「行」は,十字路を描いたもので,みちをいく,動いて,動作する,という意味。目的があって進む,という意味か。
「通」は,「甬」は,人が足でとんとん地板を踏み通すこと。「辶(足の動作)」を加えて,途中でつかえとまらず,突き通すこと,
「道」は,首(あたま)を向けて進みいく行くみち,

漢字のニュアンスからは,

「行きしな」は,何かしようとして行くついでとなり,
「通りがかり」「通りすがり」は,寄り道のニュアンスがある。
「道すがら」は,みちみち,ということになる。

漢字のもつ意味を損なわずに,使い分けている,とも言える。いまさらながら,かつての日本人のもっていた言語感覚,音感に,敬服する。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
簡野道明『字源』(角川書店)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)







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