2015年06月10日

なしくずし


「なしくずし」は,

済し崩し,

と当てる。意味は,

借金を少しずつ返却する,
物事を少しずつすましていく

という意味のようである。語源も,

「ナシ(済し)+崩す」

で,借金返済等の義務を少しずつ果たし,済ましていく,

という意味とある。『古語辞典』にも。「なしくづし」として,同様の意味が出ている。『大言海』は,その借金返済の意を,詳しく,

借りた金高のうちを,若干ずつ,至大に返済すること,
高利貸しなどにいう語。一円を借りて,毎日十銭ずつ十五日に返し,計一円五十銭となる類。

とある。今日でも,会計用語では,

なしくずし償却

という,

「基本的には減価償却と同じだが、暖簾代や特許のような無形資産に用いられる。減価償却は製造工場のような有形資産に適用される。特許は実際に減耗しない為、特許に掛かった費用は、複数年に分けて(なし崩し的に)経費として計上される。無形固定資産の償却は,基本的には原価配分の原則にしたがって,残存価額を考慮しない『定額法』(例外として鉱業権には生産高比例法が認められている)によることになっている。したがって,取得原価のすべてが償却可能額であるのでこれを『なしくずし償却』と呼んで特色づけている。」

等々と説明されるごとく,生きているようであるが,しかし,多く,今日,

なし崩し的,

というのは,あまりいい意味では使わない。まずは,借金の返済の仕方を,物事の処理一般に汎用化して,

ものごとを一度にしないで,少しずつ片付けてゆくこと,
徐々に行なうこと,

と転じて,そこから,

正式な手続きを経ず,既成事実を少しずつ積み上げること,

と,というように転化して,

「済し崩しに既成事実が作られる」

というような使い方をする。例が悪いが,ソリューション・フォーカスト・アプローチで,

イエスセット,

というのがある(逆の,ノーセットもある)。相手がイエスとしか言いようのないことを積み重ねていく,

いい天気ですね,

そうですね,

明日もこんな感じでしょうか,

そうですね,

と,重ねていくうちに,一種トランス状態に入って行く。そのうち,まあそうだな,と変る。例の霊感商法と同じである。

幸せになりたいですか,
はい,
幸せになりたければ○○しませんか,

てなことを重ねて言って,

幸せになりたかったら,これ(壺だったり,塔だったり)を買いなさい,

という奴である。これが,なし崩しである。イエスセット話法などと言う人もいる。詐欺と霊感商法と新興宗教は,紙一重である。例の,「割れ窓理論」,

「軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで凶悪犯罪を含めた犯罪を抑止できるとする環境犯罪学上の理論。建物の窓が壊れているのを放置すると,誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される」

も,一種のなし崩しへの対策である。体験では,放置自転車の買い物籠にペットボトルが一つ投げ捨てられているのを放置しておくと,瞬く間にその辺り一帯がゴミの山と化す。

閑話休題。

一つ穴が書いてしまえば,

まあ,いいか,
このくらいならいいか,
ここまでならいいか,
ここまでいったんなら,これもいいか,

等々となる。乱暴な言い方だが,例のサンクスコストも同じである。サンクスコストとは,

「埋没費用ともいう。事業や行為に投下した資金・労力のうち,事業や行為の撤退・縮小・中止によっても戻って来ない投下資金または投下した労力」

をいう。たとえば,それまで開発等々に相当額を投入してしまうと,その投入額に目が行って,意思決定が先延ばしになる。

既に生じてしまった回復不能なコストは,現在および将来の意志決定入れるべきではない,

というのが意思決定の鉄則である。しかし,我が国は,サンクスコストに引きずられて,ずるずる,まさに,

なし崩し的に,

資金投入し続ける,ということが戦前戦中戦後を通して,変らない宿痾である。とりわけ,

サンクスコストの額が大きいほど,エスカレートしやすい,

と言う。当然そこに巨大な利権も絡んでいるにしても,原発再稼働も,その視点で見ていい。日中戦争(につづく太平洋戦争も)をずるずる戦線拡大し続けたのも,戦艦大和の製造がやめられなかったのも,八ッ場ダムが結局継続されたのも,失う金額(の多寡)に目がくらんで引きずられたと言ってもいいかもしれない。結局なし崩しに,(国民にとって)巨大な借金(だけならいいが命の危険も)が膨らんでいく。

そうやって,知らぬ間に,ティッピングポイントを過ぎ,気づくと,もはや後戻りがきかない。ちょうど,振り込め詐欺にあって,送金ボタンを押した瞬間,あれ,と異和感を懐くのに似ている。後戻りは効かない。

しかし,何時,われわれは,それに気づくのだろう。







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posted by Toshi at 05:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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