2015年06月19日
おこがましい
「おこがましい」は,
「をこがましい」
と表記し,
「烏滸がましい」
と当てる。で,
ばかげている,物笑いになりそうだ,みっともない,
出過ぎている,差し出がましい,
といった意味になる。語源的には,
「お(を)こ(おろか)」+「がましい(接尾語)」
となる。前に,「をこ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/419978918.html
で,触れたが,元来,「をこ」は,
烏滸
とも
痴
とも
尾籠
とも当てる。
おろかなこと,ばか,たわけ,
の意味で,『古事記』に,既に出典がある。『古語辞典』によると,
ウコ(愚)の母音交換形,
とあり,『大言海』には,
可笑(をか)しは,此の語の転という,
とある。意味は,
あほらしきこと,ばかげたること,
だが,『大言海』には,こう言う一文が添えてある。
「尾籠(をこ)と当て字して,尾籠(びろう)と音読にもせり。また,後漢の頃の南蛮に,烏滸(をこ)の国あり,其の風俗に,理非を転倒して,笑うべきこと多し,その語暗合して,後に混淆せり」
と。「をこがまし」は,『古語辞典』には,
ばかげている,みっともない,
という意味しか出ていないが,『大言海』には,その他に,
差し出がましい,
という意味ではなく,
さかしらである,でかしだてなり,こしゃくなり,
が載っている。「でかしだて」とは,
上手くやってのけたという様子を誇示すること,得意然とすること,
だから,小癪なのである。
『古語辞典』には,
馬鹿馬鹿しいこと,
しか意味がなかったのに,『大言海』には,
小癪,さかしら,
の意味が加わり,現代では,それが,
差し出がましい,
と若干ニュアンスを変えた。「おこがましい」が,
差し出がましい,
という意味になったのは,江戸時代という説もあるが,『大言海』には,その意味はないので,妄説といっていい。むしろ,
さかしらである,でかしだてなり,こしゃくなり,
であること,要は,
ちょこざいな,
ことが,言ってみれば,場所柄,立場柄からみれば,
出すぎであり,
場所柄を弁えず,
となり,
差し出がましい,
ということにつながるところから生まれた,と考える方が無難である。「小癪」から「差し出がましい」までは,ほんのあと一歩であるように思う。
穿ちすぎかもしれないが,「をこ」に「尾籠」を当てたことが,影響していなくもない。「尾籠(びろう)」は,
例を失すること,無作法,
汚くて,汚らわしく,人前では失礼にあたる,
という意味だが,「をこ」を「尾籠(をこ)」と当てたものを,音読して,「尾籠(びろう)」と読むようになったものだから,本来は,
礼を失すること,無作法,
の意味であり,
汚いもの,汚らわしいこと,
に使うようになったのは,江戸時代のようである。とすると,「尾籠(をこ)」に,
無礼,不作法,
の意味が写ることで,結果として,「尾籠(びろう)」に,
汚い,
という意味が残った,ということであろうか。結局,「烏滸(をこ)」が「尾籠(をこ)」に,意味まで,スライドしていった,ということになる。言葉は,確かに生きている。いまや,
おこがましい,
自体が,死語である。それは,
差し出がましい,
不作法,
自体が,死語となることを意味している。つまりは,いまや,
差し出がましくでしゃばる
のを,よしとするのであろうか。あるいは,
慎み深い,
とか,
身の程を弁える,
とか,
分を弁える,
自体が,死語なのかもしれない。
嗚呼…!
である。それにしても,かつては,「をこ」に,
「嗚呼」
の字を当てていたこともあるという。なかなか意味深である。まさしく,
嗚呼,
である。
参考文献;
金田一京助・春彦監修『古語辞典』(三省堂)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
http://gogen-allguide.com/o/okogamashii.html
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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