2015年06月22日
まくら
「まくら」は,落語で言うそれは,
「頭に置くものの,洒落」
が語源という。一般には,
「落語はマクラと本編、そしてオチで構成されています。この3つを、それぞれ独立させることなく、一連の流れで話します。この流れで一席の落語ができあがるというワケです。」
と説明される。実は,厳密に言うと,その前に,マエオキというのがある。
「えー,一席お笑いを申上げます」
とか,というものである。これだけでも,
時候の挨拶(お暑いところを)
客の来場の様子(一杯のおはこびで…)
来場への謝辞
口演内容の予告
落語について(毎度ばかばかしいことを…)
等々とあるらしいのだが,ま,これは長々続かない。たぶん,ここで,会場の雰囲気や反応を,確かめているのだが,その流れで,(その境がわからないことも多いが)まくらへとすっと入って行く。まくらと言っても,いろいろの意味合いがあるようで,たとえば,
自己紹介をしたり,
世間話をしたり,
本題に入るための流れを作ったり,
本題でわかりにくい言葉の説明をさりげなく入れたり,
現在では廃れてしまった風習や言葉に関する予備知識を解説したり,
軽い小咄を披露したり,
小咄などで本題前に聴衆をリラックスさせたり,
本題に関連する話題で聴衆の意識を物語の現場に引きつけておいたり,
「落ち (サゲ)」への伏線を張ったり,
等々,演目へとソフトランディングするための,雰囲気づくりとなっている。場合によっては,吉原の話をするための言い訳が加わったりする。
結局,まくらは,その演目に合ったものをするが,基本的には,
演じる落語の演目に関連した話をする,
現代ではほとんど使われなくなった人,物,様子などの解説をする,
2種類が骨格で,それにいろいろまぶす結果,上記のようないろいろな話が加えられるらしい。小三治師匠のように,
まくらだけで高座が終わる,
ということもあるが,そこまで行くと,本題に入らなくて(そこで終わらないで),このまま続けてほしい,と(観客側が)いうほどの,まくら自体が,
エンターテイメント,
になっているからかもしれない。しかし,それは,噺家としての力量が前提で,誰とは言わないが,ある売れっ子の若手(というより中堅か?)噺家のまくらを聞いただけで,ある意味,その人の噺をきかないでもいい,とチャンネルを切り替えさせる見立ての目安にはなっている,と感じた(結果,チャンネルを回した)。本人が勘違いしていればいるほど,まくらで,その力量が見える気がする(ただ僕がその噺家が嫌いというだけかもしれないが)。
「マクラは、噺の本題とセットになって伝承されてきているものが少なくない」
という。しかし,素人ながら,マクラの果たす役割は,ただ,
現実(この会場のこの時,この場)と噺の世界,
をつなぐ,
回路
というか,
異次元を開くまじない(「開けゴマ」みたいな),
というだけではないという気がする。もちろん,そういう意図があるにはあるが,僕は,いま,噺をしようとしている噺家その人が,その導き手で,その人の口先に乗って,一緒に噺の世界へ入って行くための,
協約関係,
というか,
共同作業関係,
というか,
同盟関係,
というか,
違う言い方をすると,この(噺の)船頭の船に乗ってついて行っても大丈夫,という,見立ての位置づけにあるのではないか,という気がする。独演会が多いので,初めから,その噺家を目当てに出かける場合,それは不必要に見えるかもしれないが,寄席で,次々と噺家がとっかえひっかえ(失礼,入れ代わり立ち代り)登壇する場面を想定すると,
まくら,
は,ある意味,リアルの噺家の人柄と力量とを見極める場になっているのではないか,という気がする。
「マクラはお客さんが本編に入りやすい状態にほぐす役割を兼ねているのです。このマクラは落語にとって前フリなのです。また、マクラは『話す』のではなく、『振る』といいます。なぜなら、まずはこのマクラでお客さんを『振り向かせる』ということでしょう。」
とある。しかし,当たり前だが,まくらにその噺家の技量と力量が反映している。
ちなみに,「枕」の語源は,
「マ(間・床と頭の間)+クラ(座)」で頭を支える道具,
という説と,いまひとつ,
「マク(枕く)+ラ(接尾語)」人体上部につける寝具,
という説がある。上につけるという意味で,枕詞という言い方があり,『枕草子』のマクラは,最初におく題詞(見出し)の意味を指す。『大言海』は,
「間座(まくら)の義,頭の隙間を支うるなり」
と,前説を取っている。したがって「枕」には,いわゆる「まくら」の意味以外に,それに準えて,
頭の方,
とか,
物事の拠り所,
とか,
前置き
とか,
序
といった意味がある。落語の「まくら」も,その流れと言っていい。ついでながら,「枕」という字は,まさにマクラの意だが,「枕」の
「冘」は,人の肩や首を重荷でおさえて,下に押し下げるさま,
という。古い時は,牛を川の中に沈める様だという。「枕」は,木製の枕。
考えれば,「枕」次第で,いい夢の世界になるか,悪夢になるかの分かれ道だ。「まくら」はなかなか意味深い。
参考文献;
野村雅昭『落語の言語学』(平凡社選書)
http://allabout.co.jp/gm/gc/207062/
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください