2015年06月26日

くりからもんもん


くりからもんもんは,

倶利伽羅紋々

と書く。意味は,

背中に彫った倶利迦羅竜王の入れ墨。また、その入れ墨をした人。転じて、入れ墨。

とある。倶利伽羅とは,

梵語Kulikaの音写で,倶利迦羅竜王の略。倶利迦羅竜王とは,

「不動明王の化身としての竜王。形像は、岩上で火炎に包まれた黒竜が剣に巻きついて、それをのもうとするさまに表される。剣は外道の智、竜は不動明王の智を表したものという。倶利迦羅明王。倶利迦羅不動明王。倶利伽羅。」

とある。不動明王とは,

「梵語Acalanāthaの訳,五大明王・八大明王の主尊。大日如来の命を受けて魔軍を撃退し、災害悪毒を除き、煩悩を断ち切り、行者を守り、諸願を満足させる。右手に利剣、左手に縄を持ち、岩上に座して火炎に包まれた姿で、怒りの形相に表す。両眼を開いたものと左眼を半眼にしたものとあり、牙を出す。制吒迦(せいたか)・矜羯羅(こんがら)の二童子を従えた三尊形式が多い。不動尊。無動尊。」

と,まあ,ここまでチャンクダウンしても,不得要領。いやはやおのれの,無学非才,無知は,救いがたく,恥じ入るばかり。

倶利伽羅紋々の「紋々」は,

模様の意味の紋を重ねたもの,

だが, 倶利伽羅王が火焔に包まれた竜から,「燃え燃え」との説もあるが,「模様」が淵源のようだ。特に,「倶利伽羅紋々」といった場合,入れ墨でも,本来は,

背中一面に彫った刺青,

を指すらしい(それから入れ墨一般に広がったらしい)ので,まあ,確かに「紋々」という印象かもしれない。

『大言海』の「倶利伽羅」の項の説明がいい。

「(梵語krkara黒龍と訳すと云う)岩の上に立てたる剱を,黒龍の,巻きめぐりて,其の切先を呑まんとし,其の背に,火焔の燃えあがる象を図したるもの。剱は不動明王の三摩耶形(さんまやぎょう)にて,右手に持てる降魔の剱,龍は,左手に持てる縛の索(なわ)にて,龍の剱を巻くは,即ち不動の化身の像なりと云う。勇肌の火消,鳶の者などの,その背に,此図を文身(ほりもの)にしたるを,倶利伽羅もんもんと云う。燃え燃えを火焔の勢いに因みて,勇ましくはねて云うなるべし」

と。この説の説得力がある。

この倶利伽羅紋々のいわれについて,野村胡堂は,『銭形平次捕物控』「お珊文身調べ」の中で,文身(ほりもの)は,もとは罪人の入墨から起こったとも言われるが,これが盛んになったのは,元禄以降,特に宝暦,明和,寛政と盛んなったとして,

「大模様の文身の発達したのは,歌舞伎芝居や,浮世絵の発達と一致したもので,今日残って居る倶利伽羅紋々という言葉は,三代目中村歌右衛門が江戸に下って,両腕一パイに文身を描いて,倶利伽羅太郎を演じてから起こったことだと言われて居ります。」

と書いている。倶利伽羅太郎のことはよくわからなかったが,四代目歌右衛門について,

「四代目中村歌右衛門(二代目中村芝翫)は、天保四年中村座九月狂言『手向山紅葉御幣』において、『芝翫名残り狂言何れも大出来大々当りくりから太郎にて腕に倶梨伽羅龍の入れぼくろせしなり此節歌川国芳画にて水滸伝豪傑のにしき画大に流行して東都侠者彫ものにせし也是によりて芝翫如是にして看官の眼をよろこばせしなり』と評されるように、ほりものと所縁が深い人物であることは、間違いないと言えるであろう。」

という記述(大貫菜穂「上方浮世絵にみるほりものの発露」)があるので,三代目か四代目かは知らないが,上方歌舞伎から持ち込んだもののような気がする。

「いれずみ」は,

「入れ+墨」

で,文身,刺青とも当てる。『大言海』は,

刑の名。肌に傷付けて,墨汁を差す。後の標となすなり。徳川氏の制には,追放,敲き等に付加(つけ)て行う。二の腕に,幅三分ずつ,二条入れる。あるいは左,あるいは右。またあるいは,顔にも入れる,

が最初に出る。つぎに,

ほりもの,

ときて,「ほりもの」の項には,いわゆる彫物のほかに,

人の膚に針にて,人物,花鳥など,種々の象を刺し作り,墨,朱なとを差し入れること。市虎(いさみ)など身の飾りとす。いれずみ,箚青,雕青,文身。

という説明がある。刺青は,「アルプスの氷河から発見された5300年前のアイスマンの体には入れ墨のような文様が見つかっている」など,

「体毛の少ない現生人類の誕生以降、比較的早期に発生し普遍的に継承されて来た身体装飾技術と推測されている。」

という。日本でも,世界的にも古く,

縄文時代に作成された土偶の表面に見られる文様,

があるし,縄文人と文化的関係が深い蝦夷やアイヌ民族の間に入れ墨文化が存在している。

三世紀の,『魏志倭人伝』には,

「男子皆黥面文身以其文左右大小別尊之差」

の記述があり,その後の,『後漢書東夷伝』にも,

「諸国文身各異或左或右或大或小尊卑有差」

との記述があり,入れ墨の位置や大小によって社会的身分の差を表示したり,他の生物への威嚇効果を期待したりと,意図は異なるが,日本人(だけではないが)にとって,刺青は,縁がある。世界的にもタトゥーがはやっているのは,飾りもさることながら,人類の気質に起因しているのかもしれない。








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posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 身体 | 更新情報をチェックする
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