2015年07月05日

同期


蔵本由紀『非線形科学 同期する世界』を読む。

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著者の蔵本由紀氏は,

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%94%B5%E6%9C%AC%E7%94%B1%E7%B4%80

日本の非線形科学の先駆者。

「著書の"Chemical Oscillations, Waves, and Turbulence"は非線形動力学の分野でもっとも引用される文献の1つで、『出版部数より引用件数のほうが多い』」

などと言われている。

著者は,劈頭で,

「胸の鼓動,呼吸,体内時計,歩行…,私たちは四六時中『リズム』とともに生きています。鳥のはばたき,蛍の明滅,虫の鳴き声…,命の在る所にリズムがあるとさえ言えます。」

と書く。考えれば,大は,銀河の回転から,地球の公転,自転,小は胸の鼓動まで,我々は,リズムの中に生きている。あるいは,生きていること自体がリズムなのかもしれない。ところが,

「リズムとリズムは出会います。すると,不思議なことが起こります。互いに相手を認識したかのように,完全に歩調を合わせてリズムを刻み始めるのです。これが『同期現象』と呼ばれるもので,『シンクロ現象』とも呼ばれます。」

と,本書は,振り子時計から始まって,蛍の集団発光,吊り橋を歩く群集によってもたらされた橋等々,その同期現象の例示をさまざまに紹介していく。

この同期現象が科学の表舞台に登場することが少ないのは,

「数学的に記述することがなかなか難しい」

からだ,という。なぜなら,

「同期現象は『全体が部分の総和としては理解できない』いわゆる非線形現象の典型なので,『全体が部分の総和として理解できる』線形現象を扱うために磨きをかけられてきた数々の手法では,容易に歯が立たないのです。」

ただ,過去数十年の成果として,「一般的に記述できる数理の言葉を,扱えるようになった」として,著者自身の,

蔵本モデル,

も,本書中で,紹介している。詳細は,

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%94%B5%E6%9C%AC%E3%83%A2%E3%83%87%E3%83%AB

に譲るとして,同期現象が注目される理由は,

第一に,生命現象自体が,同期しつつ,意味のあるリズムを生みだしている,という点に着目されているところにある。たとえば,心拍や体内時計,あるいは脊髄の神経ネットワークがリズムを生成し,同期してくれることによって,人や動物が走ったりできるし,魚は泳ぎ,虫も移動できる。

第二には,同期現象を人工システムとして応用できるという期待があるからで,送電システムや信号機のシステムなどに広く応用がはかられてきている。

等々として,著者は,同期現象は,

「広く解釈すれば,同期現象はモノとモノ,人とモノ,人と人との協調した動きを意味します。同期現象の立場から自然や人間社会に光を当てると,今まで見えなかったいろんなことがみえてくる」

という。

個々の同期現象を紹介している箇所の面白さもあるが,それ以上に,非線形著者のものの見方が,なかなか面白い。たとえば,メトロノームや振り子時計を並べておくと,リズムを揃える同期現象がみられるが,その説明を,こう切り出す。

「(具体的な現象からいったん離れて)現象を抽象化して見ることは,とても重要です。そうすることで,いろいろな状況下で現れるリズム現象や同期現象を共通の言葉で言い表すことができるからです。」

その上で,

「『位相』という言葉はリズム現象一般に適用可能な共通語として,特に有用です。リズムの集団が生み出す多くの現象は,位相だけで言い表すことさえできます。位相とはリズムの進み具合のことです。」

として,こういう説明をする。

「ある周期的なくりかえし現象に対応して,円周上を一つの粒子が一定の速さでぐるぐる周回しているようすを思い浮かべると便利です。つまり,振動子を『円運動する仮想的な粒子』と見なすのです。運動方向は左回り,即ち角度が増大する方向で,早さは一定としておきます。すると,振動子がある瞬間にどのような状態にあるかは円周上の粒子の位置で示すことができ,それは角度で表されます。角度ゼロの基準点は適当に定めておきます。円運動のイメージを用いますと,リズムの進み具合を表す位相はまさに角度によってあらわされることがわかるでしょう。」

これは,科学の発見が多く,アナロジーを使うことでなされる,というのと似た,思考スタイルだということができる。

さらに,中枢神経系のうち脳幹と脊髄とを併せた部分を脳の他の部分の切り離した,いわゆる「除脳ネコ」の実験で,中枢と切り離されていても,脳幹を刺激されると,歩きはじめる,という。これは,脊髄にある神経ネットワークがリズミックに動き始めるからだとされる。この神経ネットワークを,

中枢パターン生成器

と呼ぶそうだが,これは,「脊髄の損傷で麻痺した人でも,意図しないのにひとりでに下肢の屈筋と伸筋がリズミックに交替する」という現象がみられるように,

一種の振動子ネットワーク

と見なすことができる。そして,

「それぞれの振動子は活動状態と非活動状態とが交互に現れるようなリズムを示します。このリズムがしっかりした強いものであるためには,この振動子はただ一個のニューロンではなく,ニューロンのグループが作るマクロな振動子でなければなりません。
これらのマクロな振動子はたがいに適当にタイミングをずらしながら,つまり適当な位相差を保ちながら同期して活動しています。それぞれの振動子の活動が,運動ニューロンを介して筋肉のそれぞれの部分にはたらきかけます。」

これは,脳から切り離された「除脳ネコ」が,トレーニングで歩けるようになり,つまり脳無しで,脊髄だけで学習する,ということを意味する。しかも,

「トレッドミル(リハビリ用ウォーキングマシン)のベルトのスピードを変化させた時,ネコはそれに合わせて歩調を変化させる」

ということから,脊髄は環境適応能力さえ持っている,ということになる。このことが,集中制御方式から,

自律分散制御システム,

の応用として,

交通信号機ネットワークへの応用へとつながっていく。たかがリズムではあるが,その非線形は,予定調和ではない,その都度の変化対応の機能を考えていくモデルになっていく。なかなか奥は深い。

参考文献;
蔵本由紀『非線形科学 同期する世界』 (集英社新書)
高沢公信『発想力の冒険』(産能大出版部)






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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posted by Toshi at 04:37| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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