2015年07月14日


よこざま,

という言葉がある。

横様
あるいは
横方

と書く。当然ながら,

横の方向,
とか
横向き,

という意味たが,僕が見た用例は,

当然でないこと,
道理に背くこと,
よこしまなこと,

という意味であった。どうも「よこ」という言葉に意味がある。

因みに,漢字の「横」は,「黄(呉音おう・漢音こう)」が,火矢の形を描いたもので,上は,「廿+火(=光)」の略体,下は,中央にふくらみのある屋の形で,油をしみこませ,火をつけて飛ばす火矢。火矢の黄色い光,つまり,「黄」は,

動物の脂脂肪(廿印)のついた火を描いた象形文字で,四方八方に発散する火矢の光,

を表し,「横」は,「木+横」で,中心線からはみだして広がる横木,勝手に広がる意を含む,という意味で,多少「はみだす」という含意がなくもないが,和語「よこ」の方にその意味が強いようだ。

「よこ」には,いくつか語源があるが,

ひとつは,「ヨコタフ」が語源で,体をヨコタエルのヨコ,
いまひとつは,「ヨ(寄)+コ(方向)」で,正面に対して,「寄る方向」がヨコ。不正な方向,ヨコシマのヨコ,

この第二説が,横しまは,横様に通じる,と言えるが,どうも,直感的には,順逆がさかさまの気がする。「よこ」のもつ(当然でないという含意というか)意味から,横様が出たのではあるまいか。

もう一つの説は,

ヨキ(避き)と同根。平面の中心を,右または左に外したところ,またその方向の意。タテ(垂直)に対し,水平方向の意。転じて,意識的に中心点に当たらないようにする,真実・事実を避ける意から,「よこごと(中傷)」,「よこしま(邪悪)」等々,故意の不正の意に用いた。類義語「ワキ(脇)」は,中心となる者にぴったりと添ったところの意,

この説の方が,委曲を尽くしているように思う。ただ,(ここまで書いてきて,はたと気づくのは)ひょっとすると,本来,タテ(正道)に対して,ヨコは,縦にするのを横に倒す,という喩から,もともと正しくない,という意を含んでいた,とも見られなくもない。

横様雨,
横様斬り,

は,たた横向きを指しているだけだが,

横様の死,

は,横向きの含意がある。横様の死が「横死」の訓み,で文字通り,非業の死,というニュアンスだが,

犬死,

というか,まっとうではない死に様をしめしている。ただ,

横様の幸い,

は,予期しない幸い,僥倖,というか棚ぼたである。想定外,とか不意に,というニュアンスがある。「横死」の「横」にもそんな含意があるのかもしれない。

横矢,
横槍,

は,側面を,鑓や矢で突かれたことを意味しているから,そこにも,不意打ちのニュアンスがある。

しかし,考えると,

横言,
横訛り,
横飛び,
横恋慕,
横流し,
横取り,

と,「横」のつく言葉は,横向きという以外は,ほとんど悪意か,不正か,当たり前でない,ことを示すことが多い。

横を行く,

と言えば,無理を通すだし,

横車,

も,横向きに車を押す,ことだから,理不尽さ,という意味合いを含んでいる。

横紙破り,

は,線維に沿って縦に破るのではなく,横に裂こうとする含意から,無理押しの意味が含まれる。

そういえば,以前,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/418108792.html

で,「立板に水」に対して,「横板に飴」という言い方について書いたことがあるが,ひょっとすると,「横」に意味があり,木目に逆らって,というところに,不正とは言わないが,不自然さ,というニュアンスを含めていたのではないか,ということに思い至る。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)






今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
ラベル: よこざま
posted by Toshi at 04:51| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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