2015年07月19日
彌造
彌造(弥造あるいは弥蔵とも)は,
やぞう(やざう)
と読む。隠語大辞典(http://www.weblio.jp/content/%E5%BC%A5%E9%80%A0)によると,
「弥次郎兵衛の転語で、懐手して拳を肩先にふくらませる格好。町の無頼漢や下品な職人がする風体。」
とある。弥次郎兵衛は,というと,
「人形の一種。頭と胴に見たてた短い立棒に,腕に見たてた長い横棒をつけ,横棒の両端におもりをとりつけたもの。立棒の下端を指で支えると,大きくゆれながら,バランスを保つ。振り分け荷物を肩にした与次郎人形の姿に作ったのでいう,与次郎人形,つり合い人形」
とある。『広辞苑』によると,
振り分け荷物を肩にした弥次郎兵衛の人形を用いたから言う,
とある。『古語辞典』では,「彌蔵」を当て,
近世,男の奉公人の通名,
懐手して拳をつくり,衣を突き上げる恰好。近世後期,江戸で言う,
とある。『広辞苑』では,「弥蔵」と当てている。
奉公人の通称,
懐手をして,着物の中で握りこぶしをつくり,肩の辺りを突き上げる姿形。江戸後期,職人,博徒などの風俗。
とある。やっている仕草はよくわかるが,これは,
ちょっと粋がって見せている,
ということなのだが,どうも,普通の町人というよりは,火消や鳶職の人を指しているに違いない。だから,
男伊達,
を気取っている,ということになる。伊達については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/388163232.html
で触れたが,いまで言うと,
鳶職の人のズボン,
あるいは,
土木・建設工事の作業服,
というか,
ニッカボッカ(Knickerbockers)
をさらに膨らませたのを穿いている,のがそれにあたるかもしれない。かえって危ないのではないか,と思うが,どうも流行らしい。
元来は,(鳶や火消しは)通常の着物では仕事として動きにくいため,
下半身は股引き,上は筒袖,
というスタイルで,いまの洋服と変わりがない。忍者や行者(修行僧)達もちょっと膨らみのある,裾は絞ったものをはいていた,というから,激しい動きや足捌きを必要とする人にとっては,
袴
でも邪魔で,足首を絞る必要があったのだろう。
忍者袴,
と呼ばれたりするが,まあ,要は,脛の部分に巻く布や革でできた,
脚絆,
を巻いたものなのかもしれない。かつての日本軍の歩兵が巻いた,
ゲートル,
でもある。
「障害物にからまったりしないようズボンの裾を押さえ、また長期歩行時には下肢を締めつけてうっ血を防ぎ脚の疲労を軽減する等の目的がある。日本では江戸時代からひろく使用され、旧日本軍では巻き脚絆が軍装の一部を構成した。現在でも裾を引っ掛けることに起因する事故を防いだり、足首や足の甲への受傷を防ぐ目的で着用を義務付けている職場がある」
としているから,ニッカボッカと股引の混血のようなものになる。それをわざわざ膨らませる,というわけだ。
話を元へ戻すと,
彌造,
は,ちょっと男伊達を気取った風体ということになる。それにしても,本来,
奉公人
を指していたはずなのに,どこから,
粋な格好つけ,
に変ったのだろう。『大言海』は,
懐手をして,着物の中で握りこぶしをつくり,肩の辺りを突き上げる姿形,
の意味しか載せていない所を見ると,明治には,まだそんな風体が残っていたのかもしれない。そのせいか,野村胡堂の『銭形平次』には,
彌造に馴れた手,
腹立ちまぎれの彌造をこさえて,
彌造を拵えて,
と,鯔背を強調する書き方をしきりにしている。いなせについては,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/414618915.html
に書いた。
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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