2015年07月29日

鼻毛


鼻毛は鼻毛ではないか,と思ったが,念のため辞書(『広辞苑』)を引くと,さにあらず,

鼻孔中に生える毛,

という説明は,むろんあるが,その後に,

愚者,

女に甘いこと,またその者,

という意味が載っている。で,『古語辞典』を調べると,

愚者,
女に甘い男,

の意味しか載っていない。では,と,『大言海』を調べると,

「鼻の孔の中に生ずる毛」

とある後に,

「鼻毛長しとは,女に誑かされてあるなり,鼻毛を抜くとは,だしぬく,鼻毛を延ばすとは,女に迷ひ溺るる意。鼻毛を読む,鼻毛を数ふ,とは,女色に迷ひたる男を,女の見抜きて翻弄する意」

と,続く。どうやら,鼻毛は,愚かさと,女色に迷うこと,という暗喩になっているらしいのである。

「鼻毛で蜻蛉を釣る」という言い回しは,鼻毛を長く伸ばしているたととえ(それ自体愚かさをあらわす)のほかに,「阿呆の鼻毛で蜻蛉をつなぐ」と,阿呆を強調する表現になる。

「鼻毛らしい」という言い回しは,

女に甘いさま,

という意味である。さらには,(『大言海』にもあるが)「鼻毛が長い」自体が,

女の色香に溺れ,うつつをぬかしているさま,

という。さらに,「鼻毛を伸ばす(鼻毛が伸びる)」だけで,

女に甘く、でれでれしているとなる。どうも,ここまで来ると,「鼻毛」自体に,そういう含意がこもっているとしか言いようがない。そう考えると,少し前,なでしこジャパンの佐々木則夫監督が

「女房から言われたんですよ。女性を扱うんだから目やにや鼻毛、身だしなみにはしっかりしなさい、と」

と発言していたのに,深い含意が出る。あるいは,加賀藩三代目当主の前田利常が,幕府からの警戒を避けるため,故意に鼻毛を伸ばして愚君・アホ殿を装ったというのも,鼻毛の暗喩の意味を考えると,なかなか意味深い。そこには,バカ殿様だけではなく,女色に溺れていて,政治向きには関心がない,という含意もある。

そう考えると,「鼻毛を抜く」というのも,単なる出し抜くとか,誑かす,という意味だが,もともとは,「鼻毛を読む」,つまり,

女が自分にのぼせている男を翻弄する,

あるいは,「鼻毛を数える」も同じ意味だが(数えて抜く,か,抜いて数える,か),結果として(女性に)出し抜かれる羽目に陥る,というところに端を発して,騙される一般に転訛していったのではあるまいか。

鼻毛は(ウィキペディアによると),

「外鼻孔から入った最初の部分である鼻前庭に密生している毛を指す。鼻腔、いわゆる鼻の穴は、鼻の周囲の皮膚が直接連続しており、その表面には顔面の皮膚部と同様に皮脂腺や毛根が存在する。この毛根から生える」

ものであって,

「鼻腔奥部の粘膜表面にも細かな繊毛があり、鼻腔に入った粉塵や鼻粘膜から分泌される粘液を鼻腔の後方へ運搬する役割を担っているが、これは通常『鼻毛』としては認識されていない。また、鼻表面に生える産毛も同様に『鼻毛』とは呼ばれない。」

つまり,「鼻腔内部の鼻前庭から生え、鼻孔から露出する可能性のあるもの」を指している。なかなか難しいが,鼻孔からのぞいていないものは,「鼻毛」とは呼ばないらしいのである。

鼻毛の機能は,

「鼻から空気を呼吸する際に、フィルターのように塵埃や微粒子をからめ取ることで異物が気管支に入り込むことを防ぐほか、鼻呼吸時の吐息に含まれる水蒸気を吸着し、鼻から息を吸い込む際に蒸発させることで、わずかながら呼気の水分を回収する作用がある。」

のだとされるが,花粉症で悩まされる僕には,いささか,効果が薄い。

鼻毛が,多く男性(の女狂い)を揶揄するのに使われるのは,

「女性の場合は男性に比べて細く成長も鈍いため、男性のように鼻孔の外にまで伸びることは少ない。」

という性差があるせいに違いない。

「『鼻毛』の用法はかなり古く、平安中期の10世紀に編纂された漢和辞書『和名類聚抄』(『和名抄』)(934年成立)には、「鑷」という字に「波奈介沼岐、俗云計沼岐」(ハナゲヌキ、俗にケヌキと云ふ)という注記が見られる。さらに、13世紀の観智院本『類聚名義抄』(『名義抄』)には〈彡偏に鼻〉の字に『ハナケ』の読みがあり、16世紀の『羅葡日辞書』(1595年)にも『Fanague』の表記があるという。」

とある。

夏目漱石の小説『吾輩は猫である』には、猫の主人となる苦沙弥先生が鼻毛を抜いて原稿用紙に植え付けるところがあるが,これは,漱石自身の癖を戯画化したものらしいが,やはり,鼻毛に絡むことは,おりこうには見えない,

ちなみに,赤塚不二夫『天才バカボン』の,

http://www.koredeiinoda.net/manga/oyaji.html

バカボンのパパの(鼻の下に鼻毛とも髭ともつかぬ放射線状の毛をたくわえている)は,鼻毛に見えて(ずっと鼻毛と思ってきたし,それが妥当に思えるが),

「原作では、表紙で本人がはっきりと「これは鼻毛ではなくヒゲですのだ」と明言している回がある。」

そうで,鼻毛ではないらしいのだが,やっぱり鼻毛でなくちゃ。

それにしても,鼻は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/423124944.html?1438026227

で書いたように,

鼻が利く,
とか,
鼻が高い,

とか,あるし,鼻息も,

鼻息が荒い,
とか,
鼻息を窺う

とか,情けないイメージがないのに,鼻毛は,兎角イメージが悪い。

参考文献;
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BC%BB%E6%AF%9B







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 05:30| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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