2015年08月05日

おたんこなす


「おたんこなす」は,

まぬけ,とんま,と類する,人を罵る言葉,らしい。「おたんちん」が意味として出る。「おたんちん」を引くと,「おたんこなす」が出る。「おたんこなす」は,「おたんちん」から来たらしい。語源は,

「牡丹餅面」の変化したもの,

という。「botamoti+面」から,otamoti+nと,bが落ちnが加わって変化した語,とされる。『大言海』も,

牡丹餅面(ぼたもちづら)の略訛にてもあるか,

と注記している。ただ,

「女を卑しめて呼ぶ口語」

とあるところが重要に見える。併せて,

「筑前の博多にても云ふ」

と付言している。記憶にないのだが,夏目漱石の『吾輩は猫である 』で,苦沙弥先生が,細君に,

「夫れだから貴様はオタンチン・パレオロガスだと云うんだ」

と言っているのは,「おたんちん」にかけたしゃれと言っていい。この使い方が,たぶん,「おたんちん」のもつ意味を反映しているように思える。

俗説は,一杯ある。たとえば,http://zokugo-dict.com/05o/otankonasu.htmには,

「おたんこなすは同義語『おたんちん』からきた言葉で『ちん(男性の生殖器官のこと)』の部分を『小茄子』に例えたという説があるが『おたんちん』の語源自体が定かでないため断定は出来ない。また、おたんこなすは「炭鉱の茄子」の略で、灰をかぶった炭鉱エリアの茄子は売り物にならないことから先述のような意味になったという説もある。」

と出ている。その他,

「『おたんこなす』本来は『出来損ないの茄子』を指す ことから、単純に『おたんこ=出来損ない』或いは『おたんこなす』 と言う様になった。」

「『おたんちん』とは、江戸の新吉原(要は遊廓街)での言葉で、遊女達が嫌な客のことをこう呼んでいたと言います。男性のシンボル『おち○ち○』が短いことを『短珍棒(たんちんぼう)』と呼び、丁寧に『御』を付け、言葉が長くなるので、『棒』を省略して『御短珍(おたんちん)』になったのではないかということです。『おたんこなす』は「御短」と『小茄子』に分けます。「おち○ち○」を『小茄子』に喩えて『おたんこなす』という言葉が完成したようです。」

等々。いやはや,まことに理屈と膏薬はどこにでもつく,とはよく言ったものです。しかし,億説と退けられないのは,『大辞林』には,「おたんちん」について,

まぬけ。人をののしっていう語。

の他に,

〔遊里語〕 嫌いな客。

が載っている。だから,どういう意味か謂れなのかは別に,遊里で使われていたことは確かのようだ。

「~ちん」

というのは,接尾語で,

人名に付いて、軽い親しみや軽い軽侮を表す語。また、容姿・性格などを表す語に付いて、そういう人の意を表す,

で,「しぶちん」とか「でぶてん」とか「あほちん」といった使い方をする。

「おたんちん」も「おたんこなす」も,悪罵というよりは,からかう,揶揄するニュアンスがある。『大言海』や苦沙弥先生の使い方を考えると,遊里で使っていても,悪意や嫌悪があるようには見えないのだが。

ぐず,のろま,頓馬,と言うのと,おたんこなす,というのと,
たわけ,馬鹿,まぬけ,と言うのと,おたんこなす,と言うのと,
ばかたれ,あほんだら,ぬけ作,と言うのと,おたんこなす,と言うのと,
あんぽんたん,薄のろ,あほ,と言うのと,おたんこなす,と言うのと,

比較すると,どこかユーモラスな感触がある。面罵と言うより,おちょくっているというか,茶化しているという雰囲気が伝わる。

別に遊里説に異をとなえる気はしないが,ひょっとすると,嫌っているふりをして,

あのおたんちん,

という言い方をしていたのではないか。衒いというか,照れ隠しというか,本音を隠すという意味で,使っていたのではないのか,という気がしてしまう。

色男 (ねこ) もおたんちんも、かよひ郭の仲街 (なかのちゃう) 

と言う言い回しがあったようだから,持てないやつの総称としても,

うちの宿六,
とか
馬鹿亭主,

と似た,ニュアンスで言ったのではないだろうか。今の語感で言うので,間違っているかもしれないが,

おたんこなす

おたんちん

には,罵りや嫌悪よりは,親愛を込めた揶揄のにほひがしてならないのだが。

参考文献;
http://zokugo-dict.com/05o/otankonasu.htm
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)







今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
ラベル:おたんこなす
posted by Toshi at 04:52| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください