2015年08月10日

人体


吉田 たかよし『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』 を読む。

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http://ppnetwork.seesaa.net/article/420205932.html

で取り上げたのが,地球史の中で生命起源を探ろうとするものであった。しかし,本書は,端から,生命由来を宇宙と決めてかかっている。そういう成りたちの学問のせいか。

宇宙生物学とは,

「地球に限定せず,宇宙全体の広い視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問で,アストロバイオロジーと呼ばれています。」

という。たとえば,その宇宙生物学が挑んでいる最大のテーマの一つが,

「生物を生みだすアミノ酸が宇宙のどこからきたのかを解明すること」

とあるのがいい例だ。そして,暗黒星雲にアミノ酸を発見すべく,壮大なプロジェクトがスタートしている,という。なぜアミノ酸か。

「生命とは,アミノ酸を組み合わせて作られた精密機械」

だからである。いま,

「アミノ酸は,地球上ではなく宇宙空間で合成されたものだという説」

が浮上しつつある,と著者は言う。なぜなら,

「地球上の大半の生命は,ある特徴を持ったアミノ酸しか使用していない」

という「生命の七不思議」があるのだという。

「アミノ酸には右型と左型の2種類のタイプがあります。(中略)鏡像対象になっている2種類のものが存在し,それぞれ右型と左型といいます。試験管の中で普通に化学反応を指せてアミノ酸を合成すると,右型と左型は,ちょうど50%ずつ出来上がります。(中略)ところが,不思議なことに,この地球上で生きている生命は,大半が左型のアミノ酸だけしか利用していないのです。」

その不可思議さも,

「宇宙で誕生したアミノ酸から地球上の生命が誕生したと考えれば,都合の良いストーリーが組み立てられます。実は,もともと太陽系には,左型のアミノ酸のほうが多かったと考えられるのです。実際,現在でも,宇宙からやってくる隕石を分析すると,左型のアミノ酸が多いことが確認されています。」

なぜならば,円偏光と呼ばれる紫外線の性質が関わっている,という説があるらしいのである。

「電磁波の中には,波が伝わっていくときに振動する向きが円を描きながら回転するという特殊タイプがあり,これを円偏光と言います。波が回転する方向が右向きなら右円偏光,左向きなら左円偏光というのですが,右円偏光の紫外線が当たれば右型のアミノ酸が壊され,左円偏光の紫外線が当たれば左型のアミノ酸が壊されることが確認されています。どうやら太陽や太陽系ができる前には,宇宙の中のこの領域では,右円偏光の紫外線多く放射されていたようなのです。これにより右型のアミノ酸だけが壊れたため,比較すると左型が多くなり,それが現在の生命にも受け継がれていると考えれば,矛盾なく説明が可能です。」

その宇宙由来のアミノ酸同士を結合させ生命活動を担うタンパク質に成長させるゆりかごとして,

「注目を集めているのが,熱水鉱床と呼ばれる場所です。(中略)この熱水鉱床では,アミノ酸同士が自動的に結合することがわかっています。海底の熱水鉱床では,高温高圧のため,水は超臨界という特殊な状態になっています。これにより,脱水縮合反応と呼ばれる反応が起き,アミノ酸がつながるのです。」

と,このストーリーが可能であるなら,

「地球外生命が存在する場所として,がぜん,期待が高まるのが,木星の衛星のエウロパです。エウロパには広大な海があり,しかも海底には熱水鉱床が広がっている可能性が高いからです。」

と,宇宙へと視野を広げていく。

もともと生命の源となった海水の大量の水分は,「彗星」に由来している,と考えられている。

「42億年前から38億年前にかけて,彗星が次から次へと大量に地球に衝突しました。彗星は,別名『汚れた雪だるま』と呼ばれています。その名のとおり,彗星を構成している成分は,ほとんどが水の凍ったもので,その中に少量の有機物などが混ざっています。(中略)人間の構成要素のうち,地球に由来した物質はわずか30%に過ぎず,人体の70%は本を正せば彗星だったということになります。」

しかも,もともとその水分にはナトリウムはほとんど含まれていない。海を塩水に変えるのに月が果たした役割が大きいとされている。いまでも,月は年々3.6㎝ずつ地球から遠ざかっているが,それは時代を遡るほど地球に近かったということを意味する。

「ジャイアント・インパクト」説によると,45億年前,火星サイズの惑星が地球に衝突し,その破片が集まったのが月とされている。その時点で,現在の1/12位の距離に月があった。引力は12乗,つまり144倍,「誕生当初の海では現在の100倍以上のエネルギーで潮の満ち引きが行われていた」ことになる。

「月は今の4倍の速さで地球の廻りを回っていたのですが,地球の自転も早く,6時間で一周していました。…つまり,当時は干潮と満潮が1時間半ごとに繰り返しおとずれていたわけです。」

その結果,地殻は潮の流れで削られ,ナトリウムが一気に融け出した,と考えられている。

「体内の細胞は,ほとんどすべてが何らかの形でナトリウムを利用して活動していますが,その中でもとりわけ大きく依存しているのが神経細胞と筋肉細胞です。神経も筋肉も,細胞膜にナトリウムイオンを通す穴が空いており,ここを通ってナトリウムイオンが細胞内に入ってくると,神経細胞は興奮状態になり,筋肉細胞は収縮を始めます。」

つまり,ナトリウムを媒介にしなければ機能を果たせない,ということになる。だから,

「人体では,血液もリンパ液も,ナトリウムイオンの濃度が135~145mEq/Lの範囲内に収まるよう,厳密にコントロールされている」

特に,濃度が110mEq/Lを下回っただけで,全身の筋肉が痙攣し,脳内の神経細胞が異常をきたし昏睡状態に陥る,という。

少なくとも,宇宙由来かどうかは別として,いまの地球の誕生以来の経緯が,わずかでも狂っただけで,われわれが存在するにしても,よほど今とは変わったものになっていた可能性は高い。

生命誕生の環境という意味で,この広い宇宙の在りようが,いまをもたらしていて,それが,身体の細部に大きな影響を与えている,ということは,癌を考えただけでも奥が深い,ということが見えてくる。本来(地球上に酸素はなかったため)嫌気性であった生物が酸素を利用することで,爆発的な進化を手に入れたが,それは,(ウラン236の不安定さを使う)原子力の利用に似ている,と著者は書く。

「人体は有機化合物と酸素分子を反応させ,二酸化炭素と水に変えることでエネルギーを取り出しています。2つの酸素原子が結合した酸素分子の状態に比べると,酸素原子が炭素原子と結合している二酸化炭素や,酸素原子が水素原子と結合している水の状態のほうがはるかに安定的です。この大きな落差が人体活動を支えるエネルギーの根源となっているのです。」

しかし,そのおかげで,

「その巨大なエネルギーを使って細胞を爆発的なスピードで増殖できる能力を手にしてしまいました。実際条件さえ整えば,人間の細胞はわずか20時間で分裂できるので,細胞の数は20時間ごとに2倍に増え続けることが可能なのです。」

その結果,

「たった1個の癌細胞でも倍々ゲームで増殖することで,1ヵ月が経過すると700億個に増殖することになります。」

著者曰く,

「酸素の利用は,生命が高等生物に発達するうえで不可欠なことでしたが,同時に癌というパンドラの箱を開けることにもなったのです。」

と。しかも,癌で死亡る割合は,チンパンジーでも2%,人間は,日本人で30%の死亡率で,これは,脳の巨大化と関わる,と最近見なされるようになった,という。脳は,6割が脂肪でできており,そのため,

「人間が脳を急激に発達させるためには,死亡を作る能力を高める必要があり…,実際ブドウ糖から脂肪を合成する能力を比較すると,人間は哺乳類の中で傑出して高いのです。」

それが,癌を宿痾とすることにつながった,ということになる。

参考文献;
吉田たかよし『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』 (講談社現代新書)








今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:27| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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