2015年08月20日
浅はか
おのれを浅はかな奴だとは自認するが,
あさましくはない,
とひとりごちたところで,「あさ」は同じでも,語感が違うと気づいた。
「浅はか」は,
考えが浅いさま,浅薄なさま,思慮の足りないさま,
奥行がなく,浅いさま,
深みがなく,あっさりしているさま,軽々しいさま,
といった意味だが,『古語辞典』では,
アサは浅,ハは端の意か,浅く外れているさま,
と,注記があって,
空間的な浅い,
という意味と,
心遣い,考え,愛情などが浅い,
と二つの意味が出ている。どうやら,空間的な奥行の無さが原義で,それを敷衍した意味が,「浅」慮のように感じる。ただ,語源辞典は,まったく別の説を載せている。
「浅+量」で,アサは浅い,ハカは量(量る・考え)で,考えが浅い(「浅墓」は全くの当て字),
「浅し+はかなし」で,浅くて弱い,
とある。しかし,この両説とも,語彙の外延が広がる,という意味から考えると,こじつけではないか。むしろ,今の意味を考えても,「あさはか」は,空間的な意味から,という『古語辞典』の説に傾きたくなる。
「浅まし」は(『広辞苑』では),
動詞アサムの形容詞形,意外なことに驚く意が原義,善いときにも悪いときにも用いる,
と注記があり,
意外である,驚くべきさまである,
興ざめである,余りのことに呆れる,
(あきれるほど)甚だしい,
なさけない,惨めである,見苦しい,
さもしい,心が賤しい,
といった意味になる。語源は,『広辞苑』の,
浅む(意外でおどろく)の未然形+しい
のようである。『大言海』によれば,
もともと浅しという意の語,
とある。さらに「あざむ(浅む)」を見よ,とあり,
浅(あさ)を活用して,あざむと云ふなり,あきれ返るによりて濁る(淡(あは)むをあばむと云ふと同趣),この語の未然形アサマを,形容詞に活用せさせて,あさましと云ふ(勇(いさ)む,いさまし,傷(いた)む,いたまし)。すなわちあさましく思うなり,あざ笑うも,あざみ笑うなり,
と詳しい。「あさむ」を「あざむ」と濁ることで,意味は評価を下す意味を込めることになる。しかも,加えて,
驚き呆れる,あっけにとられる,興ざめ,の意を含む,
とある。ただ,いやしむというのではなく,
驚き呆れる,
という意味があるということは,想定外,意想外,ということだ。
そういうことをしない人がそんな振る舞いをした,
とか,
こういう場でそんなことはしないだろうということをした,
というニュアンスであろうか。
しかし,元々「浅し」は,
深しの対,
だから,空間的に,
奥行がない,
とか
平面的,
という意味であり(色や香りに転用されて「薄い」もある),それが時間的に意味を広げて,
時間経過が少ない,
となり,身分や関係に敷衍されて,
地位が低い,
縁が薄い,
となり,結果として,
心の至りつくところが深くない,
智恵が未熟,
情が薄い,
趣きが少ない
となる。どうも「あさはか」も「あさましい」も「浅」と縁が深い。浅いということは,あまりいい評価にはつながらないらしい。
薄っぺら
軽い
表面的
皮相
は,いずれも,貶める言い方に通じる。「浅(淺)」の「戔」は,
「戈」二つからなり,戈(刃)で気って小さくすることを示し,小さい,少ない意,
で,「浅」は,水が少ない,意。しかし,「浅い」という意味だけで,やはり,貶めるニュアンスがある。
浅学,
功浅,
等々。何ごとも深く奥行の見えない深みのあるのがいいらしい。嗚呼。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
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