2015年08月27日

職場学習


中原淳『職場学習論―仕事の学びを科学する』を読む。

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著者は,本書の意図を,

「『人は,どういった支援を受けて成長するのか』,はたまた『どういう特徴を持った職場であったら,人々は助け合い,かかわりあいを持とうとするのか』…本書で筆者が探求したいことは,まさに,これである」

と述べる。つまり,「これまで,いわば『ブラック・ボックス』と化していた『職場における人々の学習』を,具体的には,

「人は,職場で,どのように他者とかかわり,どのような成長を遂げるのか」
また,
「人が成長する職場というものは,どのような組織的特徴を持っているのか」

について実証的に探究するのを意図している。

このベースになったのは,二つの調査である。ひとつは,「他者支援調査」,いまひとつは,「ワークプレイスラーニング調査」である。詳しくは本書を見ていただくことにして,本書のキーワードを著者は,次のように定義している。

他者は,仕事を達成する中で関与のある人」として,上司,上位者,先輩,同僚・同期,部下,である。
学習は,「経験によって,比較的永続的な認知変化・行動変化・情動変化が起こること」として非常に広範囲に捉える。
支援は,「何らかの意図をもった他者の行為に対する働きかけであり,その意図を理解しつつ,好意の質を維持・改善する一連のアクションのことを言い,最終的な他者のエンパワーメントをはかること」とする。
職場は,「責任・目標・方針を共有し,仕事を達成する中で実質的な相互作用を行っている課・部・支店などの集団」。

支援としては,

業務支援(仕事に必要な情報を提供してくれる,仕事の相談に乗ってくれるなどの業務に密接に関連する支援)
内省支援(客観的な意見を与えたり,振り返りをさせたりといった経験にメタ化の機会を与える支援)
精神支援(他者から与えられる,仕事の息抜きになる,精神的安息をえられるなどの支援)

がある,とする。さらに,向上する能力を,

業務能力向上,
他部門理解向上,
他部門調整能力向上,
視野拡大,
自己理解促進,
タフネス向上,

と挙げている。僕は,この能力の上げ方で,引いた。仕事ができる,あるいは,業務遂行能力が向上するとはどういうことか,について,基本的な齟齬を僕は感じた。ありていに言えば,職場で,

成長するとはどういうことか,
あるいは
成長するとは何ができることか,
あるいは,
成長するとはどうあることか,

という核の認識を欠いている,という気がしたのである。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/417632824.html

でも述べたが,アージリスは,能力を,

アビリティ

コンピタンス

をあげた。コンピタンスとは,

それぞれの人がおかれた状況において,期待される役割を把握して,それを遂行してその期待に応えていける能力,

であり,ある意味,役割期待を自覚して,そのために何をしたらいいかを考え実行していける力であり,その先に,いわゆるコンピテンシーが形成される。つまり,それは,

自分がそこで“何をすべきか”を自覚し,その状況の中で,求められる要請や目的達成への意図を主体的に受け止め,自らの果たすべきことをどうすれば実行できるかを実施して,アウトプットとしての成果につなげていける総合的な実行力,

である。アビリティとは,

英語ができる,文章力がある等々といった個別の単位能力,

を指す。どうも,多く,本書で言っている能力には,肝心の,

コンピタンス

が含まれていないのである。コンピタンスとは,

自分は何をするためにそこにいて(目的意識),
そのために何をするのか(役割意識),

である。これを,自己の,

ポジショニング,
あるいは,
立ち位置,

という。これなしの能力は,背骨のない付け焼刃でしかない。つまり,実践の場でチームの,職場の実践力にはならない。その意味で,本書の支援が,ただ,そこで与えられた役割をこなすのに必要な知識・スキル程度だとするなら,そんな人が何人集まっても,組織は生きないし生き残れない。主体的に動ける能力が育てられていないからである。

実は,本書を読みながら,かつて,たしか,若林満氏らが,

入社直後配属された上司次第で,伸びしろ(成長と置き換えてもいい)が決まる,

といった,十数年に渡る調査結果を,随分前に出されていたのを思い出していた。調べたが,多分該当するだろうと思われる引用文しか見つからなかった。

http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/BKK0000686.pdf?file_id=18084

には,こうある。

「若林ら(若林・南・中島・佐野,1980)は,初期キャリアにおける LMX(垂直交換関係)とキャリア発達との関係を明らかにするために,流通業の大卒男子新入社員 85 名を対象として 3年間にわたる追跡研究を行った.その結果,『入社後 1 年間の直属上司との垂直的交換関係』は,直属上司による『職務遂行』の評価や,人事記録から得られた『給与』や『ボーナス』などの『ハードな側面』と新入社員本人による『職務欲求』『職務充実』『職務満足』『組織コミットメント』など『ソフトな側面』の両面にわたって強く一貫した予測効果を見せた.ここでいう,『直属上司との垂直的交換関係』は,『自分が上司に理解されている度合い』『上司の期待が自分に明示される度合い』『上司が自分の意見や提案を受け入れる度合い』『仕事を離れたつきあいの度合い」などで測定されている.結果を見ると新入社員本人の高い潜在能力が,直属上司との良好な交換関係を通じて開花し,キャリア発達過程は『高い目標と挑戦→直属上司の理解と援助→目標達成→心理的成功体験→成長欲求の強化→より高い目標と挑戦」という好循環を形成していた.一方,『入社時に評価された潜在能力』は高かったが,『直属上司との垂直的交換関係』が低かったグループでは,本人の成長へのモチベーションが『抑圧』されてしまい,それはより深刻な『幻滅感』を生み出してキャリア発達が阻害される結果となっていた.これら入社後 3 年間のデータは,当該新入社員が係長に昇格する時点(入社 7 年目)と課長に昇格する時点(入社 13 年目)の人事データと関連づけてフォローアップがなされた.」

管理監督職昇進時まで追跡されて,その結果をフォローし,確かめているものであった。

ある意味で,そのコアとなるものは,

アビリティ

ではない,と思う。今でいう,(上司をモデルとした)コンピテンシーの育成ではあるまいか。

役割意識と目的意識は,

役割意識なくして目的意識はない

目的意識なくして役割意識はない

という関係にある。それが成長の軸で,どのポジション,どの職種についても,ついて回る。

その点では,

http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/prod062100.htm

でも書いたが,まずは,コンピタンスの確認こそが大事なのではないか。

自分は何のためにここにいるのか,
そのためにどういう役割を担うのか,
そのために何が必要なのか,

ここで初めて,必要なアビリティが明確になる。

その意味で,本書の職場学習には,本人がその組織で生きていくためのコアな軸を欠いているように思える。

ただ,第五章「職場コミュニケーションと『能力向上』」は,ある意味現実的には暗黙の裡にわかっていることだが,職場でどれだけざっくばらんな会話ができるか,が能力向上に資するというところは,その風土づくりは上司次第という意味も含めて,納得できる。しかし,かつて,

上司はその職場風土そのもの,

という常識があったが,筆者らは,ご存知なかったように思えてならない。

参考文献;
中原淳『職場学習論―仕事の学びを科学する』(東京大学出版会)










http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 04:54| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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