2015年10月01日
破天荒
破天荒というと,
型破り,
といったニュアンスで受け止めていたが,辞書(『広辞苑』)には,
「天荒」とは天地未開の時の混沌としたさまで,これを破り拓く意,
と注記があって,
いままで誰もしなかったことをすること,
という意味で,
前代未聞,
未曾有,
と同義とある。そういえば,だいぶ前に,国語辞典『大辞林』(小学館)編集部が,
「間違った意味で使われる言葉ランキング」
を示していた(http://www.excite.co.jp/News/bit/E1382004566055.html)が,その四位に破天荒があり,本来と異なる,
豪快で大胆不敵なようす,
という意味で使っていて,さらに,文化庁が発表した平成20年度「国語に関する世論調査」でも,「彼の人生は破天荒だった」を,
本来の意味とされる「だれも成し得なかったことをすること」で使う人が16.9パーセント,
本来の意味ではない「豪快で大胆な様子」で使う人が64.2パーセント,
という逆転した結果が出ているそうで,本来の,「だれも成し得なかったことをすること」に比べると,随分と矮小化されてしまったようだ。『語源辞典』では,中国由来の二説が載っており,
ひとつは,「天荒(天智混沌の未開のさま)を破る」という『広辞苑』説で,今までになかったことをする,意。
いまひとつは,「天荒(科挙にずっと落第してばかり)を破る」で,前代未聞の意。
とある。しかし,素人ながら,後者は,破天荒のイメージとしては小さすぎる気がする。
ウィキペディアは,しかし,この説を取る。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%B4%E5%A4%A9%E8%8D%92
「中国・宋代の説話集『北夢瑣言』の記述に由来する。
中国の唐代、王朝成立から100年以上経た後も、荊州(現在の湖北省)から官吏登用試験である科挙の合格者が出ず、世の人はこの状況を『天荒』と称した。天荒とは本来『未開の地』もしくは『凶作などで雑草の生い茂る様』を言う。やがて劉蛻(りゅうぜい)という人物が荊州から初めて科挙に合格すると、人々は『天荒を破った』と言った故事に由来する。旧説には、天地未開の混沌した状態(天荒)を破り開く意がある。」
と出ている。語源由来辞典も,
http://gogen-allguide.com/ha/hatenkou.html
「『天荒』は未開の荒れ地の意。唐の時代、官吏登用試験の合格者が1名も出なかった荊州は人々から『天荒』といわれていたが、劉蛻 (りゅうぜい) が初めて合格して『天荒を破った』といわれたという、『唐摭言』『北夢瑣言』の故事から。」
と同じ故事が由来としている。しかし,旧説に,
「天地未開の混沌した状態(天荒)を破り開く意がある。」
とあるように,元々「天荒」という言葉の,
天地未開の混沌した状態,
という意味が先にあり,そのメタファとして,「荊州は『天荒』」と言われたのだから,話は逆ではあるまいか。それに,科挙(くらい)といっては,お叱りを受けるかもしれないが,それに初めて合格したのを,
天荒を破る,
というのは大袈裟ではないか。他の地域ではどんどん合格者を出しているのに,遅ればせに受かった程度で,
破天荒,
とは,大騒ぎしまい。やった,と小さくガッツポーズを取る程度でないと,それこそ,とっくに大量の合格者を出している他の地域の笑いものではあるまいか。むしろ,
嚆矢
とか
濫觴
とか
嚆矢濫觴
といった,はじまりの意に近いのではないか。
「嚆矢(こうし)」はかぶら矢(戦端を開く合図)の意。
「濫觴(らんしょう)」は大きな川もその始まりは觴さかずきに溢あふれるほどのわずかな流れである意。
いずれも,発祥を示しはしても,「破天荒」のニュアンスとは違う。確かに,
前代未聞,
とか
未曾有,
に近いが,これは,どちらかというと,人よりは,ことやもの,つまり,出来事や物事のことを指すニュアンスではないか。前代未聞は,
「今までに一度も聞いたことがないこと。非常に珍しいこと、程度のはなはだしいこと」
だし,未曾有は,
未だ曾て有らず,
そのままで,本来,仏の功徳の尊さや神秘などを称賛,というから,ありがたしに近い。しかし,やはり,
今まで一度もなかったこと。きわめて珍しいこと,
という意味に転じている。
やはり,破天荒は,破天荒,他に,
天荒を破る,
意の言葉は見当たらない。しかし,『大言海』がとどめを刺す。
「天荒は天地未聞の混沌悠久なる状態,即ち之を破る意。下文の劉蛻の故事より起こる」
と。そして,
「官吏の登用試験に落第したるを天荒と云ひ,及第したるを破天荒と云ふ。宋の孫光憲の北宋瑣言に『挙人落第曰天荒,故及第者謂之破天荒』とあり」
とし,「此の語,今は前代未聞,未曾有などの意に用いらる。甚だしく変じたるものなり。」とある。
ということは,事態は逆で,「天荒」という言葉はあったが,それには,科挙合格という意味があって,それを破る,合格を,破天荒と言った,と。とすると,
誰も無しえなかったこと,
が結構矮小化される。その意味では,前代未聞でも,大袈裟すぎるのかもしれない。もちろん,科挙合格が大変なことであると分かっていたとしても。
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