2015年10月03日

つぎほ


つぎほは,

接穂
あるいは,
継(ぎ)穂

と当てる。元来は,

接ぎ木のとき、台木に接ぐ枝など。義枝。

のことで,春の季語らしい。探してみると,

垣越にものうちかたる接木哉 蕪村
とか
雑巾をはやかけらるるつぎ木哉 一茶
とか
椿から李も咲かぬ接木かな 子規

等々,結構句がある。その接穂は,

「接ぎ木を行なう際、接がれる方の木を台木、接ぐ方の木を接ぎ穂と呼ぶ。」

ので,

「接ぎ木は、挿し木や取り木と同じく有用植物を枝単位で栄養生殖させる方法である。他の方法と根本的に異なるのは、目的とする植物の枝から根を出させるのではなく、別の植物の根の上に目的の植物の枝をつなぐことである。接ぎ穂と台木は近縁な方が定着しやすいが、実際には同種ではない組合せもよく使われる。うまくいけばつないだ部分で互いの組織が癒合し、一見は一つの植物のような姿で成長する。勿論実際にはこの接触させた位置より上は目的の植物の枝から生長したものであり、それより下は台木の植物のものであり、遺伝的に異なっている。但しまれにこれらが混じり合ってキメラや、更に遺伝子のやりとりが行われることもある。」

等々と説明される。

接ぎ木.jpg


話が飛ぶが,確か,ソメイヨシノは,

「ソメイヨシノのゲノム構成はヘテロ接合性が高く、ソメイヨシノに結実した種子では同じゲノム構成の品種にはならない。各地にある樹はすべて人の手で接木(つぎき)などで増やしたものである。
自家不和合性が強い品種である。よってソメイヨシノ同士では結実の可能性に劣り、結果純粋にソメイヨシノを両親とする種子が発芽に至ることはない。このためソメイヨシノの純粋な子孫はありえない。不稔性ではなく、結実は見られる。ソメイヨシノ以外のサクラとの間で交配することは可能であり、実をつけその種子が発芽することもある。これはソメイヨシノとは別品種になる。」

のだそうで,

「明治初年に樹齢100年に達するソメイヨシノが小石川植物園に植えられていたという記録や、染井村の植木屋の記録にソメイヨシノを作出したという記録が発見されたことから、岩崎文雄らは染井村での作出を唱えている。この植木屋の記録により、1720-1735年ごろ、当地の伊藤伊兵衛政武が人工交配・育成したとの推定もある。これによって、現在では染井村起源という可能性が有力である。
現在ではさまざまな遺伝子解析により、ソメイヨシノはクローンであること、日本固有種のオオシマザクラとエドヒガンが最初の親であることが判明」

していて,ソメイヨシノの起源として,

ソメイヨシノ = (オオシマザクラ×ヤマザクラ) × エドヒガン

と推測されているらしい。つまりは,ソメイヨシノは全くの自然から生まれたものではないらしいのである。だから,各地にある樹はすべて人の手で接木などで増やしたものということになる。

閑話休題。

という次第で,接穂という言葉は本来,植木のそれを指しているが,そのメタファから,

いったんとぎれた話を続けようとするときのきっかけ。つぎは。

という意味に敷衍され,

「話の接穂を失う」

というような使われ方をしている。「つぎは」は,

継ぎ端,

とあて,「話などをつぐべききっかけ」という意味で,接穂と同義。「端(は)」は,

端末,

の意で,「ハシ,ハタ,ハシタ」と同語源とされ,

山のハに陽が沈む,
とか
残ったハ数は切り捨て,

と言った使われ方をする。

はた
とか
へり

という意味でいい。「軒端(のきば)」「言端(ことは)」(言葉の端っこ,口先だけの表現が言葉の語源)等々。

「端」という字は,「立+耑」で,「耑」は,

布の端が揃って一印の両側に垂れたさまを描いた象形文字,

で,「立」を加えて,左右揃えてきちんと立つ,という意味になる。そこから,正しい,とか,整っているといった意味に広がる。

また,閑話休題。

で,「接穂」は,どう「接ぎ木」のメタファから考えると,単に話をつなぐという意味ではなく,本来は,きちんとその本題を受けとめてつなぐ,という意味なのではないか。

たとえば,連歌や連句の,

つけ句,

がその接穂の付け方を象徴しているように思える。

http://www5a.biglobe.ne.jp/~RENKU/nmn17.htm

等々によると,

今日も浮世の晩鐘を聞く 

の前句に対する付け方として,

つくづくと木枕のかどまはしゐて

湯あがりの簾にちかき草の花

門松の雪も静かに年くれて

飛ぶ鳥の影もかすかに雲ちぎれ

五月雨の美濃恋しくも旅に居て

等々の付句を例にしている。付けられ方で,前句の意味が変わる。それで思い出した。

コミュニケーションというのは,

相手がどう応えるかで話し手の意味が決まる,
相手の反応で,何が伝わったかが決まる,
あるいは,
こちらの伝えたいことではなく,伝わったことが伝えたことなのである,

という原則がある。話の接穂には,なかなか含意が深い。

椿から李も咲かぬ接木かな 子規

参考文献;
http://haikai.jp/sikimoku/kmr_tuke.html
http://www.h2.dion.ne.jp/~taki99/zanoshikata.htm
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
簡野道明『字源』(角川書店)








ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm


今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:21| Comment(0) | コミュニケーション | 更新情報をチェックする
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