2015年10月08日

野暮天


野暮天については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/406147111.html

でも書いたが,先だって,春風亭栄枝師匠の『蜀山人』を聴いていて,

野暮天は,谷保(かつては「やぼ」と訓んだらしい)の天神のことだ,とあった。眉唾だと思っていたが,まんざらそうとも言い切れない。大田蜀山人(南畝)が,

神ならば 出雲の国に行くべきに 目白で開帳 やぼのてんじん,

と狂歌に詠んだことから,「野暮天」または「野暮」の語を生んだ,伝えるのである。

野暮天は,

やぼてん

と訓むが,ある辞書にはこうある。

仏教の「…天」に擬したもので、「天」は程度の高い意を表すという,

と注記して,

たいそうやぼなこと。また、その人,

とあり,

やぼすけ,

とも言う,と。きわめて野暮なこと,つまり,野暮のきわめつき。天は,

高いところ

を指し,脳天,天井と使うのと同じとある。「天」の字は,これも前に書いた気がするが,

大の字に立った人間の頭の上部の高く平らかな部分を一印で示したもの,もと巓(テン いただき)と同じ。頭上高く広がる大空をテンという,高く平らかに広がる意を含む,

と,『漢字源』にはある。その意味では,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9_(%E4%BB%8F%E6%95%99)

でいう「天」になぞらえている,という説も当たらずと言えども,遠からず,なのかもしれない。

なお,「やぼ」は(野暮と当てるのは当て字),

世情に通ぜず,人情の機微をわきまえないこと,特に遊里の事情に通じないこと,また,その人,無粋,無骨。

で,それが広く敷衍されて,

洗練されていないこと,風雅の心のないこと,無風流,

となる。この反対が粋(いき,すい)となる。無粋の骨頂のような自分が,この辺りに深入りするのを避けて,話を戻す。

『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ya/yabo.html)には,

「東京都国立市の谷保天満宮の名から,『野暮』や『野暮天』という言葉ができたとする説もある。しかし狂歌師の太田蜀山人が『野暮』と『谷保』を掛け,『神ならば 出雲の国に行くべきに 目白で開帳 やぼのてんじん』と訓んだことから,そのような説が生まれたもので,それ以前から『野暮』という言葉が存在していたため,『野暮』の語源と『谷保天満宮』は無関係である。」

とある。だいたい,この狂歌が成り立つには,「野暮」という言葉がもともとあったから,「やぼ」で,「野暮」と「谷保」を懸けられたのだから,「谷保天」が「野暮天」の語源というところは確からしいのではないか。

野暮は,『古語辞典』をみると,

野暮,
野夫,
野火,

に当てられている。野暮については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/406147111.html

で書いたので,重なるかもしれないが,

「野夫」の転。藪者の略。世情に通じない者を言う。
「谷保天神」の略。付会のようだ。
雅楽の笙の17の管のうち「也亡」の二管は吹いても音が出ない。その「也亡」が語源。融通のきかない人間を指す。

「谷保天神」は,「やぼ」がなければ成り立たないので,他の二説ということになるが,『大言海』は,

野夫の音転と云夫。又藪者(やぶもの)の転略。藪澤の人,田舎者の意と云ふ。通,粋の反,

と,「野夫」を取る。別に,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E6%9A%AE

に,

「奥の細道で、『野夫(田舎者事であり『野夫』は『やぶ』とも読む)といへども、さすがに情け知らぬにはあらず』と読まれている。このように『いき』の一つとされる『情け』の反対語と関連付けられており、語源の可能性もあるが定かとはなっていない。」

ともあるらしいが,どうやら,一般には世情,特に,遊郭に不案内を指す,というところのようだ。

「地方出身の侍は,落語や川柳などで浅黄裏と呼ばれ,江戸っ子からは野暮の代表ともされた」。

とある。いわれないことだが,首都に住んでいるだけで,優越感を示すのは,それこそ,虎の威を借る狐で,僕には,そいつらの方が,よほど,

野暮,
野暮天,

に見える。いまだと,

「野暮という形容は、派手な服装、金銭への執着、くどくどしい説明などについて用いられる。また、(機能美までに至らない)非実用的で表面的な見栄えの重視、ブランドへの無批判な信仰と依存も野暮といえる。」

と言えるらしいので,まあ,都鄙よりは,個人だろう。


250px-谷保天満宮_拝殿.jpg


ところで,谷保天神(天満宮)(やぼてんまんぐう)は,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B0%B7%E4%BF%9D%E5%A4%A9%E6%BA%80%E5%AE%AE

によると,

「社伝によると、903年(延喜3年)に菅原道真の三男・道武が、父を祀る廟を建てたことに始まるという。この神社は東日本最古の天満宮であり、亀戸天神社・湯島天満宮と合わせて関東三大天神と呼ばれる。」

と由緒のある神社で,谷保は,

「南武鉄道(JR南武線)が谷保駅の駅名を『やほ』としたため、地名の『谷保』までも『やほ』と言うようになってしまったが、本来の読み方は『やぼ』である。」

という。こういう所業を,

野暮,

というのである。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)









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今日のアイデア;
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posted by Toshi at 05:29| Comment(0) | 生き方 | 更新情報をチェックする
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