2015年10月09日

治癒力


アンドルー・ワイル『癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか 』を読む。

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本書は,「自然的治癒」あるいは「治癒力」に焦点を当てて,「治療」ではなく(治癒力を高める)「健康」志向に,その具体的な処方箋にまで及んで懇切な解説がされている。その意図を,著者は,

「わたしは本書に『自然的治癒(Spontaneous Healing)』というタイトルをつけた。治癒というプロセスの内在的・内因的な特性に読者の注意をうながしたかったからだ。治療が好結果をもたらしたときでさえ,その結果とは,別の条件下ではなんらの外部からの刺激なしに作動したかもしれないような,元々内部に備わった治癒機構の活性化そのもののことなのだ。本書のテーマはとても単純だ。からだには治る力がある。なぜなら,からだには治癒系(ヒーリング・システム)が備わっているからだ。健康な人でも治癒系について知りたいと思うにちがいない。いま健康でいられるのは治癒系のはたらきのおかげであり,治癒系にかんする知識があればより健康になることも可能だからだ。もし不幸にしてあなたが,またはあなたの愛する人がいま病気であれば,やはり治癒系について知りたいと思うだろう。なぜなら,治癒系にかんする知識こそが回復への最良の希望になるからだ。」

と述べている。その発想スタイルは,癌について,

「それは,たとえ初期のがんであっても,体内にがんができていること自体,すでに治癒系の相当の機能不全をあらわしているということである。」

という記述にみることができる。

「とはいえ,細胞が変異することと,がん性の成長をつづけ,宿主を死にいたらしめる力を得ることとのあいだには,根本的な相違がある。細胞が悪性に変異するとき,その細胞は表面の膜に異常な抗原を出現させて,あらたな自己証明を行なう。すると,その細胞の変異を,常時監視している免疫系が自己のからだに帰属していない『非自己』として認識し,それを排除する。無数の細胞分裂がたえまなく行なわれる一方,悪性変異を起こす可能性は常に存在する。がんのタネはたえずつくられ,免疫系がそれを確実に除去している。つまり,進化の途上でわれわれのからだが発達させてきた,がんにたいする防衛機構である治癒系の主要機能は,悪性細胞を除去する免疫監視機構なのである。」

と。しかし,自然治癒に委ねよ,などとは著者は言わない。

「病気になったときは,健康を回復するためにどうすべきか,どんな行動をとるべきかをきめなければならない。その一連の行動をきめるのは自分の責任である。その責任を回避すれば,自分にかわってだれかがきめることになるが,それが自分にとって必ずしも最良の選択になるとはかぎらない。もっとも重要な判断のポイントは,医師などの専門家に診てもらうことが心身の治癒系を助けることになるか,それともさまたげることになるかの一点である。」

として,こう忠告する。

「たとえば現代医学は,外傷の治療に非常に有効である。もしわたしが交通事故で重傷を負ったら,迷わず現代医学の救急救命センターに駆けこみ,シャーマンやイメージ療法家,鍼灸師のところにはいかないだろう。(中略)
 現代医学はまた,診断と,あらゆる危機の対処にひじょうにすぐれている。出血・心発症・心臓麻痺・肺水腫・急性うっ血性心臓疾患・急性細菌感染・糖尿病性昏睡・急性腸閉塞・急性虫垂炎などは現代医学にかぎる。(中略)一般的にいって,きわめて深刻かつ執拗な症状,または通常の経験の範囲をこえていて,早急な手当てが必要だと思われる症状の場合は,現代医学を選ぶべきである。」

本書は,三部に分かれている。

第一部は,

「治癒系というものの存在をあきらかにし,こころとの相互作用をもふくんだ治癒系のはたらきをしめす証拠の提示にあてたい。DNAにはじまる生物学的組織のすべてのレベルにおいて,我々の内部には自己診断・自己修復・再生のメカニズムが存在し,必要があればいつでも活動をはじめる体制にある。この内在的な治癒メカニズムを活用する医学は,ただ症状をおさえるだけの医学よりもはるかに効果的である。」

というだけでなく,多くの経験談が挿入されていて,それは,

「自発的治癒はけっして稀なことではなく,しょっちゅう起こっている」

ということを,教えてくれる。しかし,それには,患者自身が,

「これ以上できることはない」
「病気と共存するしかない」
「あと半年のいのちだ」

等々という医師のペシミズムにめげす,回復した一人が証言するように,

「治癒への道のりは人によってちがうかもしれない。でも,道は必ずあるわ。探し続けることよ!」

と,諦めず,捜し続け,たずね続けることでもあるらしい。そのために著者は,こんな知恵を授けてくれる。

からだは健康になりたがっている。
治癒は自然のちからである
からだはひとつの全体であり,すべての部分はひとつにつながっている。
こころとからだは分離できない。
治癒の信念が患者の治癒力に大きく影響する。

そして,こう付け加える。

「治癒は内部から起こる。治癒の原動力は,生きものとしてのわれわれの,本然の力そのものから生じるのである。」

と。

第二部は,

「治癒系をうまくはたらかせるための方法が記されている。ライフスタイルを変え,眠っている治癒力を目覚めさせるための情報」

が満載である。そして,「ただひとこと,歩け!」として,

「からだの適度の運動とじゅうぶんな休息の機会をあたえることによって,自発的治癒が起こる機会をふやすことができる。
 からだの運動はじつにさまざまな方法で治癒系のはたらきを活発にする。血液の循環をよくし,心臓のポンプ作用を強化し,動脈の弾力性を高める。と同時に,呼吸器系のはたらきを円滑にし,酸素と二酸化炭素の交換を促進して,からだが代謝産物を排出するのを助ける。代謝産物の排出はまた,呼気のいきおいと腸の運動によっても助けられる。さらに脳からのエンドルフィン分泌を促進し,抑うつ状態を改善して,気分を爽快にする。代謝とからだ全体のエネルギー効率を高める。ストレスを緩和し,深いリラクセーションと眠りをもたらす。そして,免疫機能そのものをも高める。(中略)
 人間は歩くようにできている。からだが直立二足歩行で移動するようにできているのである。歩行は複雑な行動であり,歩行のためには感覚経験と運動経験との高度な機能的統合が要求される。歩行は筋骨格系のみならず,脳の訓練にもなる。歩行にともなう一要素でしかないバランスのことを考えてみればいい。凹凸のある重力場の表面で姿勢を変え,移動しながら,楽々と無意識のうちにバランスをたもつために,脳は膨大な情報処理を必要とする。その脳がたよりにしているメカニズムのひとつが,たとえば三次元空間で定位を感知する内耳の機関である。…脳はからだのバランスをたもつために,耳からの情報に加えて,視覚情報にも,それ以外の情報にもたよっている。皮膚の触覚受容体は脳に,からだのどの部分が地面に接しているかを知らせ,筋肉・腱・関節の自己受容体は脳に,空間におけるからだの各部分の正確な位置をたえず知らせている。」

等々。二か月で治癒力を高める,という具体的なプログラムまである。

第三部は,

「病気の対処法に関するアドバイスである。ここでは現代医学と各種代替療法それぞれの長所と短所をあきらかにし,治療に成功した患者が用いた戦略の数々を紹介する。わたしが提供するのは,現代によくみられる多くの病気の症状を改善するための自然療法である。」

しかし,著者は,こう付け加えるのを忘れない。

「自然療法には忍耐力が必要であることも覚えておいてほしい。現代医学の抑圧的なくすりにくらべて,自然療法の方法は効果が出るまでに時間がかかるのがふつうだからだ」

参考文献;
アンドルー・ワイル『癒す心、治る力―自発的治癒とはなにか 』(角川文庫)









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posted by Toshi at 05:30| Comment(0) | 書評 | 更新情報をチェックする
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