2015年10月10日

曲彔


曲彔
または
曲椂

「きょくろく」と訓むが,仏具である。辞書(『広辞苑』)には,

「法会の際などに禅僧が腰かける椅子。背もたれと肘掛けとをまるく枉げて造り,足は普通の椅子式と交脚式とがある。円椅,交椅。」

その他,

「法会(ほうえ)の際などに僧が用いる椅子(いす)。背のよりかかりを半円形に曲げ、脚をX字形に交差させたものが多い。」

とか

「法会(ほうえ)の際,使用する椅子。背もたれが丸く曲げてあり,四脚は前後を交差させて作り,折り畳めるもの。」

とか

「椅子(いす)の一種。曲禄,曲とも書く。背もたれの笠木がカーブしているか,または背もたれとひじ掛けとがカーブした1本の棒でつながっていることが特徴である。曲彔という言葉は曲彔木の略で,彔は木をはつるという意味であるから,木をはつってカーブをつくった椅子ということになる。脚が折りたたみ式の交椅(こうい),座が円形の円椅(えんい),方形の方椅(ほうい)などがある。交椅は胡床,摺畳椅(たたみあぐら)ともよばれる。」

等々。写真を見ると,一目瞭然(通販サイトでは「寺院の本堂や葬祭場に最適な本曲録です。優雅な曲線美と豪華な装飾が特徴です。座布は裏面をベルトで補強した二重構造で、安全性を重視しています」と謳っている)。ただ,真宗では見ないので,禅宗のものだろうと推測する。確かに,

曲ろく.jpg


http://www.eonet.ne.jp/~kotonara/butu-kamakura.htm

では,「『禅宗』では師が仏でありますから、仏像を必要としません。開祖、高僧の像を頂相(ちんそう)と言って、仏像より重んじられ信仰の対象とされました。頂相は曲彔(きょくろく)という椅子に坐る坐像が普通です。」

とある。珍しいのは,

http://www.suntory.co.jp/sma/jp/merumagakaiin/vol49/interview.html

に載る,(伝)狩野山楽筆,とされる豊臣秀吉画像で,曲彔に座っている図柄である。

秀吉画像.jpg


「唐冠を被って曲彔に座し、脇に長大な太刀を立てる構図は数ある秀吉像の中でも異色。上部には豊臣秀頼の自筆による秀吉の神号『豊国(とよくに)大明神』、その左脇は秀吉自筆の辞世和歌草稿と考えられる。」

との説明がある。「彔」の字は,手持ちの漢和辞典には載っていなかったが,「禄」の字の説明で,「彔」について,

刀でぽろぽろと竹や木を削るさまを描いた象形文字,小片が続いて零れ落ちる意を含む。「剥」の原字とある。昔は,竹や青銅器の表面を剥いで磨き,そこに文字を刻み付けた。他にも,

彔の字.jpg


「彔とは、木に刻み付ける、という意味がある。〔説文解字・巻九〕に『木を刻むこと录录たるなり』とある。錐のような木に穴を開ける道具と木くずの象形。甲骨文、金文は、道具と木くずという感じの形をしているが、小篆体がそれらとはかなり違う形に変化している。」

「錐キリ状の道具で木を刻み、木屑が飛び散る形の象形。甲骨文・金文の形は、まさにその道具が使われているさまを示している[字統]。篆文は他の字と混同して形が変わり、その流れが現代字に続いている。彔を音符に含む字は、『きざむ・けずる』、けずったものが『こぼれおちる』イメージを持つ。」

等々と説明がある。ネット販売をみると,

http://item.rakuten.co.jp/kokadou/c/0000000202/

のように,「曲彔」の字を使うケースもあるが,多くは,いまでは,「曲録」と表記されるケースが多い。不思議なのは,カバーには,「曲彔掛」と使ったり,座布団にも,「曲彔布団」と表記するのに,椅子の方は,「本曲録朱塗り」などと表記する。この区別がよくわからない。

面白いのは,大船渡市郷土芸能協会のホームページによると,

http://kyoudogeinou-ofunato.iwate.jp/dantai/kyokuroku/akasawa2/

「祭神が着座する台座ことを指します。高貴な身分の人の座が語源で、表記としては『曲彔(きょくろく)』ですが、曲禄・曲録とも書きます。当地方では「曲禄(きょくろく)」として伝承されています。」

として,「盛町曲彔」

http://kyoudogeinou-ofunato.iwate.jp/dantai/kyokuroku/sakarikyoku6/

と「赤澤曲彔」

http://kyoudogeinou-ofunato.iwate.jp/dantai/kyokuroku/akasawa2/

があるらしい。

「曲禄(曲彔とも書く。)とは神が座る場所をさすと云われ、神馬の背に曲禄を乗せる。
神馬は2人の馬子が手綱を取り、その両側に唄師5人、後ろに挟ん箱4人、中道具の毛槍(小鳥毛)4人。大道具の毛槍(大鳥毛)2人が就く、曲禄唄(馬子唄)に合わせて行列が進み。道中で掛け声に合わせて道具の投げ取りが行われ、此れが行列の見どころとなっている。」(赤澤曲彔)

「曲録の語源は高貴な身分の人の座で、神仏の座を表現したものと言われております。
祭神は女神(天照大神あまてらすおおみかみ)であるところから、御神馬(ごしんめ)の背に五色の布団を重ね、その上に四十八の牡丹花を飾って、その中心に神の依代(よりしろ)である金幣を立てます。
御神馬には二人の馬子が轡(くつわ)を取り、その両側に御唄師が六人、その後ろに、「挟箱(はさんばこ)」(二基)四人、「降魔鉾(こうまほこ)」(二基)四人、「利天剣(りてんけん)」(通称:大鳥毛おおどりげ・一基) 二人がつきます。朗々と響く曲録唄の流れの合間に、威勢のいい掛け声に合わせて、降魔鉾、利天剣の投げ取りが行われるのが、この行列の見所でもあります。大鳥毛とも呼ばれる利天剣は、十万石を超える禄高の大名の格式を象徴した毛槍と言われます。」(盛町曲彔)

由来は,赤澤曲彔が,

「明治45年7月15日、明治天皇崩御によって大正天皇が即位した。その間に昭憲皇太后の喪に服すため即位の礼は、大正4年まで延期される。この年、村社である加茂神社の祭典が挙行された。その祭典のお供として盛町のように大名行列を出そうと急遽取り組んだのが始まりだと言う」

から,盛町曲彔が古く,

「式年大祭に、曲録、大名行列が取り入れられたのは文政9年(1829)と言われ、当時仙台藩の足軽を招いて稽古したと伝えられております。」

とある。曲彔を神の坐る座の代わり,というか「坐す(います)」ということなのだろう。

前にも書いたが,「坐」は,

「人+人+土」

で,人が地上に尻を付けることを示す。坐って身丈を低くする意を含む,

とある。「座」は,「坐」に「广(いえ)」を加えたもので,家の中で人が坐る場所のこと。もともと,「坐」は「すわる」の意で動詞的に用い,「座」は「すわる場所」の意で名詞的に用いていた。

『日本家具文化考』http://www.jasis-cs.sakura.ne.jp/study001.html

によると,「交椅と曲彔」について,

「中国では交椅と呼ばれる椅子が宋代に出現した。折り畳み構造をしたもので,明代には別名圏椅(背凭れのある椅子),清代には大師椅があり,名称の違いと共に脚の形態が異なってきている。日本には『支那禅刹図式』などにより請来したが、円椅や俗に曲彔と変容し椅圏(背凭れ)の形態や接合技術が異なり,機能的に安定して坐れるものではない。」

とあり,やはり禅とともに渡来したものらしい。









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posted by Toshi at 05:42| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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