しくじり
しくじりというのは,
しくじること,
で,「しくじる」の連用形(名詞化)だが,
縮尻
という字を当てているのを,古い時代小説を読んでいて見かけた。かつては,結構いい加減に当て字をしていたところがあるので,いちいちとがめだてるのはどうかと思ったが,調べてみたがわからない。
http://kotobakai.seesaa.net/article/96457160.html
に,同じように気にした方が,
「井上ひさし『イヌの仇討』(文春文庫1992.4.10)のp83に、「縮尻(しくじ)る」という表記が出てきた。これは初めて見るように思ったが、井上ひさし氏のことであるから、何もなしでいきなりこんな字は使わないであろうと思ったので、まず、杉本つとむ『あて字用例辞典』(雄山閣)を見たが載っていない。次に、『遊字典』を見ると有った。」
と書いている。
「しくじる」は,
やりそこなう。失敗する。
過失などのために勤め先や仕事などを失う。
といった意味になるが,語源は,
「シ(為)+崩れる」の音韻変化,している仕事が途中で崩れる,の意。
と,
「「シ(為)+挫ける」で,仕事の途中で挫けてしまう,の意。
の二説があるようである。『大言海』は,
「為挫(しくじ)くるの略か」
と,後者を語源として取っている。それにしても,「縮尻」の字を当てて,尻を縮ませる,あるいは尻を縮める,とするには何となく意味がありそうな気がする。
「縮」の字は,
つくりの「宿」の原字が,「人+囲みの中に∧印(ちぢんではいったさま)」の会意文字で,狭いスペース(□印であらわされるふとん)の中に,二人の人が縮こまって寝ること。「宿」は,それに「宀(屋根)」を加えた字で,狭いところに縮んで泊まる意味を含む。また「伸(のびる)」や「信(のびる)」の反対で進行や発散をやめて止まる意に転じている。それに「糸」を加えた,「縮」は,ひもをぎゅっとしめて縮めること,
という意味になる。わが国で,「縮」を,織物の一つの,強く撚った糸で織った縮じわのあるちぢみに当てたのは,なかなか含意がある。
「縮」は,だから,
ちぢむ,ぎゅっとひきしめる,ちいさくちぢこまる,ひきしまる,
といった意味になる。
「尻」は,
「九」が,手のひどく曲がった姿で,曲がりくねった末端の意を含む。「尻」は,「尸(しり)+九」で,人体の末端の奥まった穴のあるしりのこと,
で,しりのほかに,
尽き果てるところ,
という意味がある。わが国では,
物の末端,また事柄の後始末,
計算の締めくくり,
といった,メタファに広げて使われ,
目尻,
とか,
帳尻,
といった使い方をする。辞書(『広辞苑』)では,お尻の意味の他に,
「もの」の尻に当たる部分,器物の下部,底面,地につく部分
とか,
続くものの後方の部分として,後部,末,
とか,
長いものの先の部分,太刀・器物の先端・末端,
長く後ろに引いた衣服の裾,
道・川などの終るところ,
物事の結果,また余波,
包み隠した事柄
(尾羽を用いることから)矢羽の数え方,
等々まで,広がって使っていることを示している。だから,尻にまつわる言葉は数が多い。
尻が温まる,
尻が重い
尻が軽い,
尻が据わる
等々。これについては,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/422266986.html
で書いたように,「しり」は,
「み(身)」の古形「む」と「しり」(後・尻)の古形「しろ」の結合した「ムシロ」の訛ったもの,
とあるように,「うしろ」の古形で,しかも,「後」の字と「尻」の字を使い分けていたようなのである。僕は,
「尻」は,物事の付けのように,一つ一つの振る舞い(しくじり)を指し,「後」は,それ自体がその人の在りよう(の落ち度)を示す振る舞いに敷衍される使い方が多い気がする。「尻」の字と「後」の字が与える印象から来ているのかもしれない。
と書いた。その意味で言うと,「縮尻」は,
物事の付けをきちんと取れなかった,
きちんと帳尻を合わせられなかった,
というニュアンスなのではないか。その意味では,
ミスする
ヘマをする
ドジる
ポカをやる
というよりは,しくじりは少し重い。
仕損ずる
手抜かりをする
不手際をやらかす
失態を演じる
不始末を起こす
という感じではあるまいか。結果として,
味噌をつける,
ということになる。まあ,
下手をうつ,
という言い方があっているか。
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