2015年10月18日
うたたね
うたたねは,
転(た)寝,
と当てる。辞書(『広辞苑』)には,
「寝るつもりでなく横になっているうちに眠ること」
と,意味が載っている。語源は,
「ウトウト+ネ(寝)」で,床に入らずうとうとすること,
という意味と,いまひとつ,
「ウツツ(現)+ネ(寝)」で,仮寝,仮眠,
の意の二説がある。「うつつ」については,
http://ppnetwork.seesaa.net/article/415235904.html
でふれたが,うつつは,本来,
現実,
のことなのに,『古今集』に「夢かうつつか」「うつつとも夢とも」等々と使われるうちに,夢と現の区別のつかない状態,
夢見心地
を指すようになった,とされる。だから,
夢とも現実ともはっきりしない状態。夢見心地。夢心地,
という意味で使われるようになって以後のことということになる。『古語辞典』をみると,
うとうとと寝ること,仮眠,
とあるので,語源的には,こちらの方なのだろうと思うが,『大言海』は,
仮寝,
の字を当てて,
現寝(うつつね)の転。たぶて,つぶて(礫),あつみ,あたみ(熱海)
と,例によって転訛の例をあげつつ,現寝を取る。で,
寝るとはなしに寝ること,
と意味を挙げる。『語源由来辞典』,
http://gogen-allguide.com/u/utatane.html
は,
「小野小町の歌に,『うたた寝に 恋しき人を 見てしより 恋てふものは たのみそめてき』とあるように,古くから使われている語で,正確な語源は未詳」
としながら,こう書く。
「漢字で『転寝』と書くが,『転た(うたた)』という副詞は,『どんどん進行して甚だしくなるさま』を意味し,『うたた寝』の「うたた」とは意味がかけ離れているため,語源とは考えにくい。また,『夢うつつ』などとつかわれる『うつつ(現)』が語源で,『現(うつつ)寝』が変化したとも考えられるが,『うつつ』が『夢心地』の意味をもつのは後世のことであるため,使われはじめた時代を考えると不自然な説である」
と。しかし,僕は,
転寝
と
転(うた)た
との「転た」関係が不意に気になる。「転た」は,辞書(『広辞苑』)には,
うたて
と同根とある。「転(うた)て」は,
ウタタの転。物事が移り進んでいよいよ甚だしくなってゆくさま,それに対して嫌だと思いながら,諦めて眺めている意を含む,
とある。で,「転た」は,
ある状態がずんずん進行して一層はなはだしくなるさま,いよいよ,ますます,
程度がはなはだしく進んで,常と違うさま,甚だしく,異常に,
程度が進んで変わりやすいさま,また何となく心動くさま,そぞろに,
と意味があり,三者の意味が微妙に違う。その違いは,副詞としての意味,
いよいよ,
甚だしい,
そぞろに,
の三者に現れている。『大言海』は,「うたた」は,「うたて」の転とするが,「うたて」には,
転(うつ)りて,の略転。うつつね,うたたね,うつかた,うたかた,
と,例によって例示しつつ,「うつりて」の転とする。で,意味は,辞書(『広辞苑』)とは微妙に異なる。
物事,異様に転(うつ)り進みて,甚だしく(あさましく感ずる意を含む)
常ならず,奇(あや)しく,うたた,
かたはらいたく,笑止に,
つれなく,なさけなく,
と。『古語辞典』には,転のほかに,
漸
の字も当てている。で,
うたうたの約。ウタは歌のうた,疑いのうたと同根。自分の気持ちを真直ぐに表現する意。副詞としては,事態が真直ぐに進み,度合いが甚だしいさま。「うたたあり」の形でも使い,後に「うたて」と転じる,
とあり,「うたて」は,平安時代には多くは「うたてあり」の形で使い,
事態の進行を諦めの気持ちで眺める意,
とある。語源はともかく,意に染まぬ進行に,
不愉快,
いたたまれない,
嫌で気に染まない,
といった気持を言外に表している。どんどんとか,甚だしい,という副詞的な背後の,
どうにもならない,
という気持ちがある。その意味では,「転(轉)」の字が,
丸く回転する,
という意味で,「うたた」にこの字を当てた言外のニュアンスがよく伝わる。その意味で,僕には,
転寝
に,この「転」をあてたのも意味があり,
(眠気が)どうにも止まらない諦め,
という方が,語源的に最後に残る,「うとうと寝」よりは,言葉の奥行を感じるのだが。
因みに,「居眠り」は,
「座ったり、腰かけたりしたまま、または他の動作をしながら思わず眠ること」
で,「うたた寝」は,
「寝床に入らないで、眠気に負けてその場で思わず眠ってしまうこと」
だそうだが,転寝の方が範囲が広い。居眠りも,転寝の意味の外延に入ってしまうようだ。
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください