おろそか


おろそかに似た,

「なおざり」
「おざなり」
「ないがしろ」
「ゆるがせ」
「かりそめ」

等々,多様な和語があるが,すでに,

「かりそめ」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/425644622.html

「ゆるがせ」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/425702421.html

「なおざり」については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/428266090.html?1445459591

等々,それぞれ触れたきたが,「おろそか」をもう一つ取り上げておく。

「おろそか」は,

疎か

と当てる。辞書(『広辞苑』)によると,

「おろ」は大雑把の意,

と注記して,

すきまが多い,まばら,
実が十分こもってないさま,また,しなければいけないことをほうっておくこと,なおざり,いいかげん,通り一遍,
つたないこと,おとっていること,

という意味を載せる。ただ,語源は,

「オロ(ウロ・空虚)+ソカ(接尾語様子)」

で,心を籠めないで行動する様子,とする。しかし,辞書の意味からすると,

「おろ」
とか
「うろ」

を指す言葉からのアナロジーと見える。『大言海』は,

「おろは疎(おろか)の語根,そかは副詞の接尾語,おごそか,あはそかなどもあり」

と載せる。『古語辞典』は,

「オロはアラ(粗)の母音交換形。物事が密でないこと。隙間が多いこと。粗略なこと。ソカはオゴソカのソカと同じ」

とする。「疎」の字は,

「疋(しょ)」が,あしのことで,左と右と離れて別々に相対する足,間をあけて離れる意を含む。『疎』は,『束(たば)』を加えて,束ねて合したものを,一つずつ別々に話して,間を開けること」

という意味で,「まばら」とか,「すきまがあいている」という意味で,そこから,疎遠とか疎むという,アナロジーへと意味が発展している。

「粗」の字は,元来は,

「ばらつくまずい玄米」

の意で,「且」の意味(積み重ねる)とは関係ない,とある。

つまり,どっちの字も,「まばら」とか「あらい」とかの意味の漢字を当てて,「おろそか」を表意しようとしたということができる。つまり,

密でない,隙間が多い→雑なさま→誠意にかける→つたない,劣る→いい加減

と,よりメタファ度を上げていったとみることができる気がする。

「疎(おろそ)か」とは別に「疎(おろ)か」という使い方もするが,「疎(おろ)か」は,

オロ(疎)+カ(様子)

で,間隙が多く,大雑把,いい加減の意から転じて,うすのろ,馬鹿,ばかばかしいさまという意味になる。

密でない,隙間が多い→雑なさま→誠意にかける→つたない,劣る→いい加減→おろか

と,上記の流れにもう一つ加えてみたくなる。

~と言うもおろかなり,

という慣用的な言い回しのそれも,「疎(おろ)か」である。後に,「疎(おろ)か」「愚か」と当てるようになる。

あだおろそか(徒疎か)という言い方は,

あだ(無益・無駄)+おろそか(疎か)

だが,「あだにもおろそかにも」の意で,同義の意味を重ねて,強めたもの。打消しの語を伴う」かたちで,

あだやおろそかにしません,

という言い方をする。

それにしても,いい加減,というか,粗雑,粗略,という意味をあらわす和語の多いこと。

ないがしろ,
ゆるがせ,
おざなり,
ぞんざい,
なおざり,

等々,もうその微妙なニュアンスの使い分けは,できなくなっている。それは,人と人の関係の密度と関係があるように思えてならない。それはそのまま,心の機微を分化する能力の劣化である。

人は,持っている言葉によって見える世界が違う,

というのが正しいとすると,見える世界が貧弱になってきた,ということになる。すべてが,

やばい,

で終わるとすると,それはどんな世界なのか。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)





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