まどか


「まどか」は,

円か,

とあて,

「古くはマトカとも」

と,辞書(『広辞苑』)にはある。意味は,

まるいさま。まんまるなさま,
満ちたりてやすらかなさま,穏やかなさま,

で,『日葡辞典』には,

マトカナヒト,

という用例があり,円満なさま,円満具足,という意味もあるようだ。

語源は,『古語辞典』には,

「ものの輪郭が真円であるさま。欠けたところなく円いさま」

とあり,『大言海』は,

「全(まったき)と通ずと云ふ」

とする。『語源由来辞典』によると,

円か
あるいは,
団か,

を当て,

「マド(円)+カ(状態)」

で,円満な状態の意,まるい,おだやかという意味,とする。

「円(圓)」という字の,

「員」は,「〇印+鼎」の会意文字で,丸い形の容器を示す,圓は,「囗(かこい)」を加えて,丸い囲い,

で,円形,まるい,欠けた所のない,という意味を持つ。「員」をみると,

「円(圓)の原字」

とあり,転じて,丸い形のもの,また広くものを数える単位に用い,さらに人数をかぞえるようになった,

とある。和語で「まとか」と言っていた言葉の意味と,「円」の意味とを重ねて,「円か」と当てたということだが,その知識と読みの深さには驚く。「団(團)」を当てている場合があるようだが,「団(團)」という字は,

「專」の原字は,円形の石をひもでつるした紡錘の重りを描いた象形文字で,甎や磚(円形の石やかわら)の原字。圓は,「□(かこみ)」を加えて,円形に囲んだ物の意,

で,やはり,まるい,という意味になるが,円形のかたまり,円形に集まったひとかたまりになった人や物,といった意味で,円より,丸いのメタファ色が強い。そのせいか,あまり,まどかに,団かと表記はしないようである。

ところで,「円」というと,通貨の「円」が類推される。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86_(%E9%80%9A%E8%B2%A8)

によると,

「『円(圓)』という単位名は中国に由来する。中国では、銀は鋳造せずに塊で秤量貨幣として扱われたが(銀錠)、18世紀頃からスペインと、それ以上にその植民地であったメキシコから銀の鋳造貨幣が流入した(洋銀)。これらはその形から、『銀円』と呼ばれた。後にイギリス香港造幣局は『香港壱圓』と刻印したドル銀貨を発行したのはこの流れからである。『銀円』は、その名と共に日本にも流入し、日本もこれを真似て通貨単位を『円』と改めた。」

とあるが,

http://www.kuniomi.gr.jp/geki/iwai/enyurai.html

によると,

「18世紀頃の中国では、銀塊を中国銀貨としていたんです。この頃は中国にも日本にもメキシコの銀貨が入って来ている時代で、中国ではメキシコ銀貨の円形を指して、『銀円』と呼ぶようになったのです。その後、中国でも円形の銀貨を作るようになったのですが、円の正字である「圓(げん)」は画数が多めなので、同じ読みの「元」を貨幣の総称と決めて「銀元」としたんです。日本は多くのことを大陸(中国など)から倣っていますが、これも倣うことにして、「円」にしたのです。」

とあり,元も円も同源か,と思ったが,しかし,

元は,ゲン(漢音でガン,呉音でゴン)
圓は,エン(漢音,呉音も同じ)

で,漢和辞典で見る限り,わからない。で,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E6%B0%91%E5%85%83

をみると,

「中国語では、貨幣の単位を話し言葉と書き言葉とで使い分ける。『块』は専ら話し言葉で使う単位であり、書き言葉では、『圆』を用いる。紙幣に書かれた文字は当然書き言葉であるから『圆』と表記されている。ただし、『圆』には、発音が同じで『yuán』で画数の少ない『元』をあてるのが日常的な習慣となっている」

とあり,「圆」は,圓(繁体字)であり,円(新字体)とあるから,「圓」が「元」になったというのが,やはり正しい。それにしても,

そのカタチが円い,

ところから,「円」と読んだとは,なかなか面白い。因みに,「元」の字は,

「兀(人体)の上にまるい,印(あたま)を描いた象形文字で,人間の丸い頭のこと。頭は上部の端にあるので,転じて先端,はじめの意となる」

とある。初め,とか,元のもの,という含意を込めて,「元」を当てているというふうに見えなくもない。

参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)



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