2015年11月20日

阿漕


「半七捕物帳」で,「阿漕の平次を決め込む」

という言い回しを見て,

阿漕は,

あこぎ

と訓むが,その音感の印象から,よく時代劇などで,

「阿漕な奴」

という言い回しの記憶があり,

強欲でやり方が義理人情に欠けあくどい,
とか
無慈悲に金品をむさぼる,

といったニュアンスで受け取っていた。だから,辞書(『広辞苑』)にある,

際限なくむさぼる,また,あつかましいさま,
酷く扱うさま,

という意味の方は(なんとなく)知っていたが,

地名「阿漕の浦」の略。古今六帖「遭ふことを阿漕の島に引く網のたびかさならば人もしりなむ」の歌による,

とあって,意味として,

度重なること,

とあり,転じて,上記の意味になる,とあるのは,浅学にして知らなかった。『古語辞典』では,

古歌「伊勢の海の阿漕が浦に挽く網も度重なれば人もこそ知れ」を踏まえた言葉。『阿漕が浦』は伊勢神宮に供える神饌を捕るための禁漁地だった」

として,まず,

隠れて行うことも,度重なれば危うい意,

があり,次に,

(禁を犯して漁をする意から)限りなくむさぼること,飽くを知らないこと,

とある。だから,禁漁地であるのを隠れて漁をする,という含意から,あまり外していない使い方だ。それが,辞書(『広辞苑』)では,前提や枠を外した意に転じている,とみえる。『大言海』は,

事を度々すること
俗に,際限なく貪ること,

としていて,すでに,転じた位置にあるように見える。

で「阿漕の浦」をひくと,

津市の海浜。伊勢神宮に供する神饌の漁場で,殺生禁断の地とされ,また謡曲・浄瑠璃によって有名,

とあり,上記の歌から,

「隠しごとも度重なれば広く知れ渡る意」

とある。さらに,「阿漕の平次」も載っていて,辞書(『広辞苑』)には,

「阿漕ヶ浦で禁断を犯し,魚を得ようとして簀巻きにされたという伝説の漁夫。古浄瑠璃『あこぎの平次』,人形浄瑠璃『田村麻呂鈴鹿合戦』(『勢州阿漕浦』)などに作られる。能『阿漕』や御伽草子『阿漕の草子』が先行するが,この人名はでない。」

とある。

推測するに,禁漁区で,密漁も度重なれば,ばれる,といったニュアンスの意味だったのが,

「母の病のために禁断を破って魚をとり、簀巻 (すま) きにされたという伝説」

に作り上げられた,と見えなくもない。「阿漕(あこぎ)」の言葉の由来

https://church.ne.jp/akogi/akogi.htm

によると,

「『御伽草子』に『阿漕の鰯売り』という話があります。平安時代以後の阿漕は、伊勢神宮の御厨となって、漁獲物を神宮へ奉納していました。
・伊勢の海の阿漕か浦に引網の度かさならはあらはれにけり。
・いかにせん阿漕ケ浦のうらみても度重られはかわる契りを。
 などの和歌が残されているように、伊勢神宮と阿漕の漁民の間に、いざこざが絶えなかったことを伝えています。これはある期間の漁獲を献納であったのですが、阿漕の人々には、生活上、死活問題であり、
 『度かさならは あらはれにけり』で、 処罰をうけたらしいのです。 
 こういうことから、『阿漕平治物語』が江戸時代にできたようです。室町時代末期にも「謡曲・阿漕」があったようですが、まだ、「阿漕平治」という特定の人物をさしていません。江戸時代中期になって浄瑠璃(義大夫)の『勢州阿漕浦・鈴鹿合戦、平治住家の段』ができ、それを『芝居』に仕組み、ここに『阿漕平治』の名を登場させたのです。」

とあり,漁民にとっては大いなる迷惑で,こっそり獲っていたというわけなのだろう。しかし,

「度かさならは あらはれにけり」

と,処罰された,という謂れを見ると,やはり,「こっそり何度も重ねてばれる」という含意があった,と見ることができる。その意味で,おおっぴらに,

無慈悲な業突く張り,

というのは阿漕というよりは,

非情
とか
無慈悲

というべきものだろう。因みに,「阿漕の平次」は,

「阿漕平治は母が病気で寝込んでいるため、伊勢神宮へ奉納するための漁場と知りつつ、病によく効くという「矢柄」という魚を密漁してしまいます。これで母の病気を癒せると嬉しがってわが家に帰ったのですが、あまりの嬉しさに浜辺へ笠を忘れてきてしまいます。そこへ、役人が来てその笠を見つけ、「笠に平治と書いてあるのが証拠だぞ」、と平治を引き立てて処刑をしてしまいました。母の病を思っての孝行も水の泡。平治は簀巻きにせられて、海へ投げ込まれてしまった」

という話らしい。

それにしても,「阿漕の平次を決め込む」というのは,

「しかしいつの代にも横着者は絶えないもので、その禁断を承知しながら時々に阿漕の平次をきめる奴がある。この話もそれから起ったのです。」

というくだりなので,

欲深い平次
でも,
親孝行の息子
でもなく,

横着ものの平次,

のようである。



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ラベル:阿漕 阿漕の平次
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posted by Toshi at 05:39| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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