2015年11月27日

もてる


「もてる」は,辞書(『広辞苑』)には,

持つことが出来る,
保たれる,
もてはやされる,ちゃほやされる,人気がある,

と意味が出ているが,ここでは,三番目の,「女性にもてる」の意味の「もてる」である。語源は,

「持て+る。可能から受身に転じたのが語源」

とあり,他から大事に取り持って,地や本屋される,意とある。モテモテも同源,とある。

『大言海』は,

「持たるる(被持)の約転の例」

として,「持ち得る」の意の他に,

厚遇せらる,歓待せらる,

の意を載せ,

「花柳界の語なるべく,卑語なり」

と注記する。まあ,業界用語やヤクザの隠語が,世間を闊歩するようになる例は多いが,これもそれらしく,小谷野敦氏も,

「『もてた』『振る』『振られる』といった現代の恋愛用語は,遊郭で発生したものである。」

と明言する。

新吉原.jpg


安藤広重 江戸名所『新吉原』


ちなみに,こんな記事が続く。

「遊里へ上がったのは,所期には武士,富裕な町人,後期には町人が主だが,『江戸幻想』派の中には,まるで当時の男たちが,これは文化とばかり,堂々と遊郭に通ったかのように言う人がいるが,それはない。ある程度はこそこそとやっていたことである。もちろん,裕福な家の若旦那が,ある店の花魁に入れあげたりしたら,勘当問題にさえなるだろう。(中略)娼婦は,事実上売られてきた女であり,借金の抵当で客を取らされているのである。それを相手に,恋のかけひきをしたり,娼婦が間夫(まぶ)=真実の恋人,とか『いろ』とか言い,熊野誓詞に起請文を書いたりしていたのだから,これはかなり異常で変態的な文化である。」

と辛辣である。

つまり,そういう世界で使われていた言葉だということになる。因みに,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/35mo/moteru.htm

によると,

「もてるとは異性から人気があることやちやほやされることである。もてるは多くの場合、多数の異性から好かれることを指すが、『あんな美人にもてるなんてうらやましいよ』といったように特定の人から好かれる際に使われることもある。もてるは古く江戸時代には既に使われており、持てるという書きも使われた。また、昭和中期辺りからモテるというカタカナを併用した表記も使われる。」

とある。意味として,

もてはやす,

だが,「もてはやす」は,「持て囃す」あるいは「持て映す」とあてる。この場合,「もて」は接頭語で,接頭語の「持て」の中で,

もてあがめ,
もてかしずき,

などと同類で,対象を大事にし,特に相手に対して,~するという意味を持つ。

「はやす」は,

勢いを添えて,相手に輝きや美しさを発揮させる意,

で,「もてはやす」は,『古語辞典』では,

相手に正気を添えて引き立たせる,
(人などに)大切に重んじて待遇する,
特別にほめそやす,誉め立てる,

とあり,辞書(『広辞苑』)では,

照り映えるようにする,
下にも置かぬようにして,もてなす,
さかんにほめそやす,

とあり,意味はそれほど変化していない。この意味のニュアンスは,『大言海』を見るとわかる,

映(はえ)あるように誉めあぐ,取り立て褒む。ほめそゆーやす,
互いに相映りわす,照りはゆるようになす,

であって,ただ持ち上げるのではない。

誉めることで相手を輝かせ,同時に褒める自分にもそれが映る,

というニュアンスがある。となると,

もてる,

の本来の意味,

持つことが出来る,
保つことが出来る,

と重なってくる。「持てる」は,そうすることで,相手が映えるにすることでなくてはならない。それを遊里で使うことで,意実が下卑た,といえなくもない。

参考文献;
小谷野敦『日本恋愛思想史 - 記紀万葉から現代まで』 (中公新書)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)



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