2015年12月20日

五衰


五衰というと,三島由紀夫の『天人五衰』を連想するが(そうでもないか),

五衰三熱,

という言葉があり,そこから調べ出した。五衰は,

天人が命尽きんとするときに示す五種の衰亡の相,

で,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E4%BA%BA%E4%BA%94%E8%A1%B0

では,

「六道最高位の天界にいる天人が、長寿の末に迎える死の直前に現れる5つの兆しのこと。」

と説明される。(経によって諸説あるが)涅槃経では,

衣裳垢膩(えしょうこうじ):衣服が垢で油染みる
頭上華萎(ずじょうかい):頭上の華鬘が萎える
身体臭穢(しんたいしゅうわい):身体が汚れて臭い出す
腋下汗出(えきげかんしゅつ):腋の下から汗が流れ出る
不楽本座(ふらくほんざ):自分の席に戻るのを嫌がる

とされ,さらに,異説が多い「身体臭穢」の代わりに

『法句譬喩経』1や『仏本行集経』5では「身上の光滅す」

『摩訶摩耶経』下では「頂中の光滅す」
『六波羅蜜経』3では「両眼しばしば瞬眩(またたき、くるめく)」」

とされる,とある。長寿の天人にも,死がある,というのも面白いが,「三熱」は,やはり仏語から来ていて,

「竜・蛇などの承ける三つの苦悩,熱風・熱沙に身を焼かれること,悪風が吹いて住居・衣服を奪われること,金翅鳥 (こんじちょう) に(『子が』と加えるのもある)捕食されること。三患」

とある。因みに,金翅鳥は,

「迦楼羅(かるら)」に同じ,

とあり,迦楼羅は,梵語garuḍaの音写。

「インド神話における巨鳥で,龍を常食するという。仏教に入って,天竜八部衆の一として,仏法の守護神とされる。翼は金色,頭には如意珠がおり,常に口から火焔を吐くという。日本で言う天狗箱の変形を伝えたものとも言う。」

とある。金翅鳥は,

「インド神話・仏典に見える想像上の鳥。八部衆の一つ迦楼羅(かるら)とは別のものであったが,同一視されるようになった。」

とも言われる。金翅鳥については,

http://makasatsu.web.fc2.com/bird.htm
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%80

に詳しい。ついでながら,迦楼羅炎(かるらえん)というと,

不動明王の光背の名称,迦楼羅の羽を広げた形に似るから,

という,そうだ。

さて,「五衰」に「三熱」が加わった,「五衰三熱」は,『故事ことわざ辞典』によると,

五衰三熱の苦,

とあり(「五衰」は,天人が死ぬ前に現れるという五種の衰相。「三熱」は,畜生道で竜や蛇などが受ける三つの苦しみ),

「逃れられない苦しみをいう」

とある。この言葉が,神道史の中に出てくる。かつて,神祇信仰においては,女性が中心的な役割を果たしてきたが,仏教の「女性罪業観」つまり,

「仏教では,インド仏教以来,『五障」といって,女性は,梵天・帝釈・魔王・転輪聖王(てんりんじょうおう)・仏になれず,成仏するには『変成男子(へんにょうなんし)』(いったん男性に転生すること)が必要とされた。また戒においても,比丘尼に対して,比丘尼戒はその数倍の数がある」

によって,「穢れ」観が増大した。

しかしそれにしても,マホメッドにしても,釈迦にしても(キリストは良くわからないが),どうしてこう女性や,性を怖れるのだろう。不謹慎ながら,「まんじゅう怖い」の一種か,と思ってしまう。

閑話休題。

で,神仏習合というか,本地垂迹というか,日本の神々,特に女神が困ったことになった。そのため,謡曲『葛城』『三輪』等々には,

「弁才天,三輪神といった女神が,女性の身からの救済を願う話が載せらる」

ということになる。そこに,「五衰三熱の苦しみから免れんとする」という言葉が出てくる。『三輪』には,三輪神(女神)が,玄賓僧都(げんぴんそうず)に衣を求めて,

「まづ当社は女体にてござ候。また承り候へば,神も五衰三熱の苦しみがござあると申し候へば,さやうのおんことに御衣をご所望ありたると推量仕りそうろう。」

とある。女神が,高僧に帰依して五衰三熱の苦しみから救済を請う物語がパターン化される,という。

「三熱」の含意で,龍・蛇があり,龍蛇神につながるが,弁才天は,本地垂迹で,市杵嶋姫命(いちきしまひめ)と同一視され,水の神とされる。その意味で,「三熱」の意味を汲んでいるところがあるが,本来男神である,葛城神,三輪神まで,女神に置き換えて,「抜苦請願」する役割を振られている。これが,中世,天照大神が男神とする例が,神道側にもあったというから,神仏混淆が,行きつくところまで行った,という感じなのであろうか。

五衰から,少し遠くへ来過ぎた。

参考文献;
伊藤聡『神道とはなにか』(中公新書)



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posted by Toshi at 05:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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