2016年01月07日

阿魔


阿魔

と書くと事々しいが,よく,

「このあま,」

と,映画やドラマで,女性を罵倒する時に使う。もちろん,僕は,女性にそんな言葉を使ったことはない(ないはず,ないと思う,ないような気がする)が。

手持ちの辞書には出ていない。俗語らしい。

『隠語大辞典』

http://www.weblio.jp/content/%E9%98%BF%E9%AD%94

によると,

女ノ事ヲ云フ。〔第六類 人身之部・北海道庁〕
女性を詈る語。尼の意、男性の坊主に対す
女を罵つていふ詞。
〔俗〕女中のこと。主として在支、在日外人間に使はれてゐる。
〔俗〕女を罵つていふ言葉。「あまつこ」と同じ。
女人夫。
印度語から出た語、女を罵つて云ふ語、又在支、在日の外人等が女中を云ふ

とある。これが正しいかどうかはわからないが,これからに見るかぎり,あきらかに差別語だが,

「ばかチ〇ンカメラ」

などと,平然と使ったりするのと同様,これが明らかな差別語であることを意識していない人の方が多いのではないか。

「チ〇〇コロ」

などという,蔑視の言葉と類同である。こういう言葉を平然と使うようになったのは,維新後の近代日本以降であると思っている。西洋と並んだと自惚れ,アジア諸国に対し優越感を持ち,「名誉白人」などと言われて喜んで,南アの黒人差別に加担していた日本人の気質と重なるような気がする。

阿魔

の語源はわからないが,『日本語語感の辞典』には,

「女性を卑しめて言う古い俗語。特に,若い女性に対して用いることが多い。…男性版の『野郎』と違って親しみをこめて用いる例はほとんどない。海にもぐる『海女』ではなく,仏に仕える『尼』の系統の語というが,読経をするような殊勝な女とは無縁なので,『阿魔』という感じを使って区別する例が多かった。もはや女性に対しておおっぴらに言える時代ではないので,近年はめったに使われない。」

とある。「尼」は,

「尼の語源は、サンスクリット語の「善良な女性」を意味するambaaの俗語形の音写ではないか」

等々といわれ,母の意ともあるが,他の辞書には出ていないがけれど,『大言海』の「尼」の項を見ると,

「女の義。梵語に,僧を比丘と云ひ,女僧を比丘尼(女僧)と云ふ。これを尼(に)とのみにも云ふ。…此尼に女の意なる阿摩をあてたるなり(善女,信女)。康煕字典『尼,女僧也,釋典有比丘尼』敏達紀,十三年九月,『令度,司馬達等女島曰善信似尼』とあり,是れ,我が邦の女僧の始なり。或は,翻訳名義集に,『阿摩,此云母』とあり,女の僧となるは,多く,老女なれば,母の義に取りて,尊称したるが,普通の女僧の称となれるなるべしと云ふ説もあり,今,沖縄にて,下層民の母をあま,又あんまと云う」

との注記がある。しかし,ここでいう「阿摩」と「阿魔」は同じであろうか。

「阿摩」と書くとと,「阿摩羅識(あまらしき)」のことを指し,阿摩羅識については,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E6%91%A9%E7%BE%85%E8%AD%98

に詳しい。

「天台宗では、阿摩羅識をけがれが無い無垢識・清浄識、また真如である真我、如来蔵、心王であるとし、すべての現象はこの阿摩羅識から生れると位置づけた。」

とあるから,この「阿摩」が「「阿魔」になったというのはどうかと思うが,逆に,だから,「摩」を「魔」に変えたのだとも邪推できなくもない。

とちあま,

ということばがあるらしく,

とち阿魔,

とあてる。意味は,

ばかな女。女性をののしるときに用いる。

とある。この場合も,阿魔である。

「阿」の字は,もともとは,「阿諛」のように阿る意味もあるが,

阿兄(あけい)
とか
阿母(あぼ)

といった親しみの気持ちを表して人を呼ぶ言葉につく,接頭語,でもある。

「魔」の字は,

「麻は,摩擦してもみとるあさ。擦ってしびれさせるという意を含む。魔は『鬼+音符麻(しびれさす)』あるいは梵語の音訳字か」

とあってはっきりしない。「摩」の字は,

「麻は,すりもんで線維をとるあさ。摩は『手+音符麻』で,手で擦り揉むこと」

とある。

ただ,「摩」の字はそのまますること,磨くことといった意味だが,「魔」は,まものとか,怪しい術といった意味になる(ただ,人の善事を妨げる欲界第六天の王,転じて悟りの妨げとなる煩悩には,魔羅とも摩羅とも当てるらしいが)。

『大言海』を信ずるなら,ほんらい,「阿摩羅識」の「阿摩」で,女性,それも,けがれのないというニュアンスであったものが,悪罵の表現として使われるとき,「阿魔」に変った,と見るのが,できる推測だが,どうだろうか。

参考文献;
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


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