2016年01月27日
きつね
きつね,
は,
狐,
と書く。辞書(『広辞苑』)には,
「日本では人をだますとされ,ずるい物の象徴とされてきたが,稲荷神の使いでもある。」
とある。そのせいか,そのメタファから,
たくみに人をだます,
とか
(男を誑かすところから)娼妓を罵って言う語,
という意味で使われる,らしい。しかし,日本最古の説話集『日本国現報善悪霊異記』には,
「欽明天皇(540-571年)の御代に美濃の国大野の出の男と結婚した女が子供までもうけるが,実は野干(きつね)であって,その家の犬に吠えたてられて籬(まがき)の上にのがれていたのを,その夫が,やさしく『汝と我との中に子供生まる。故に,吾忘れじ。毎(つね)に来たりて相寝よ』と招きよせ,それに従ったので,以来,〈來つ寝〉(きつね)と呼ぶようになった…。」
という話が載る。語源を見ると,
「キツ・クツ(鳴き声)+ネ(接尾語 犬inu>nu>ne)」
とある。『大言海』には,
「本名キツ,またクツにて(キツの條を見よ),ネは意なく添えたる語(羽(は)ね,杵(き)ね,眉(まゆ)ね)。又,或は,稲荷の神の使いとして,尊称のネを添えたるか」
とある。で,「きつ」の項を見ると,
「又,クツと云ふ。共に鳴く声を名とせしならむ。其の声,コウコウとも云ひ,狂言記に釣狐を,吼噦(こんくわい)と云ひ,クワイクワイと云ひ,今コンコン」
とあり,鳴き声が語源のようだ。きつねは,古名,
きつ,
くつ,
別名,
いがたうめ,たうめ,野干(やかん),たうか,けつね,
と,『大言海』は書く。
『由来・語源辞典』
http://yain.jp/i/%E7%8B%90
によると,
「語源は諸説あり、その一つは、『きつ』は鳴き声から、『ね』は接尾語的に添えられたものとされる。また、『き』は『臭』、『つ』は助詞、『ね』は『ゑぬ(犬)』が転じたもので、臭い犬の意とする説、『きつね(黄猫)』の意とする説、体が黄色いことから「きつね(黄恒)」とする説などがある。」
『日本辞典』
http://www.nihonjiten.com/data/45902.html
によると,
「『キ』は臭、『ツ』は小詞、『ネ』は犬(エヌ)からで、臭気のある犬の意・『キツエヌ』が転じた説、好んで人家に来て寝るから、またキツネが妻に化けて子を産んだという伝説の中の「なんじ我を忘れたか・・・来つ寝(キツネ)よ」に由来し、『来寝(キツネ)』の意とする説、色が黄色いことから『黄恒(キツネ)』、『黄ツ猫(キツネ)』の意とする説、鳴声に由来し、キツイ鳴く音(ネ)、またはキツの鳴声にネを添えた説などがあり、他にも多説ある。」
と,それぞれ載せる。
しかし,まあ,「きつ」「くつ」と呼んでいたのだから,鳴声説が,妥当なのだろう。なぜ,人をだますということになったのか,その謂われは,よく分からないが,『古今著聞集』には,
ある男が,朱雀大路で,美しい女と逢う。女は狐なのだが,男は女に迫る。女は,『交合(まぐわい)をすると必ず死んでしまうから』と断るのだが,男がさらに迫ると,『あなたの仰せに従うけれども,結局あなたの身代わりになって死ぬのだから,若し私の心を合われて思われるのなら法華経をかいて供養してください』と言い,夜明け方,女は男に扇を乞い,あした武徳院にいってごらんなさいと言い置く。男が武徳院に行ってみると,一匹の狐が扇で顔を覆って死んでいた。男は哀れに思い,七日ごとに法華経をかいて供養したところ,七七,四十九日の日の夢に,女は天女たちに囲まれて『我一乗の力によって,今忉利天(とうりてん)に生まるなり』と告げて去った。
という話が載っている。
どうも,
恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉
の葛の葉の白狐にしろ,狐の方が情が深い。
「王子の狐」という噺がある。
http://ginjo.fc2web.com/34oujinokitune/oujinokitune.htm
「王子稲荷(東京都北区王子)の狐は、昔から人を化かすことで有名だった。
ある男、王子稲荷に参詣した帰り道、一匹の狐が美女に化けるところを見かける。どうやらこれから人を化かそうという腹らしい。そこで男、『ここはひとつ、化かされた振りをしてやれ』と、大胆にも狐に声をかけた。『お玉ちゃん、俺だよ、熊だ。よければ、そこの店で食事でも』と知り合いのふりをすると、『あら熊さん、お久しぶり』とカモを見付けたと思った狐も合わせてくる。かくして近くの料理屋・扇屋に上がり込んだ二人、差しつ差されつやっていると、狐のお玉ちゃんはすっかり酔いつぶれ、すやすやと眠ってしまった。そこで男、土産に卵焼きまで包ませ、『勘定は女が払う』と言い残してさっさと帰ってしまう。店の者に起こされたお玉ちゃん、男が帰ってしまったと聞いて驚いた。びっくりしたあまり、耳がピンと立ち、尻尾がにゅっと生える始末。正体露見に今度は店の者が驚いて狐を追いかけ回し、狐はほうほうの体で逃げ出した。
狐を化かした男、友人に吹聴するが『ひどいことをしたもんだ。狐は執念深いぞ』と脅かされ、青くなって翌日、王子まで詫びにやってくる。巣穴とおぼしきあたりで遊んでいた子狐に『昨日は悪いことをした。謝っといてくれ』と手土産を言付けた。穴の中では痛い目にあった母狐がうんうん唸っている。子狐、『今、人間がきて、謝りながらこれを置いていった』と母狐に手土産を渡す。警戒しながら開けてみると、中身は美味そうなぼた餅。子狐「母ちゃん、美味しそうだよ。食べてもいいかい?」母狐『いけないよ!馬の糞かもしれない』」
どっちがだますのやら。「狐」という字は,
「犬+音符瓜」
で,やはりクワクワと鳴く声を真似た擬声語らしい。
参考文献;
阿部正路『日本の妖怪たち』 (東書選書 )
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%84%E3%83%8D
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%8B%E5%AD%90%E3%81%AE%E7%8B%90
ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm
今日のアイデア;
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