2016年01月31日

鬼の霍乱


鬼の霍乱(かくらん)という言い回しは,昨今あまり使わなくなった。かつては,いつも月月火水木金金(この言い方もあまり伝わりにくいか),と休みなく働く上司が不意に病欠したりしたのを指して,そう陰口していたが(「目上の人に対して直接使うのは失礼にあたる」とされているが,感覚的にそれはわかって使っていたらしい),辞書(『広辞苑』)にある意味は,

いつも極めて壮健なひとが病気になることのたとえ,

とある。まあ,諺の一種で,「ことわざ辞典』にも載り,

鎧のままで鬼の霍乱,

という句が載っている。鬼については,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/430051927.html

で触れたが,ここで言う鬼は,中国語の亡霊の意味ではなく,角のある件のオニのイメージなのだろう。『語源辞典』には,

「鬼(平素丈夫な人)+霍乱(日射病)」

とある。鬼のイメージは,そういうものなのだろう。

「オニということばが文献にあらわれるのは平安時代に入ってからで,奈良時代の万葉集では,『鬼』の字をモノと読ませている。」

とあるので,恐ろしい怪物のイメージが定着した以降のことばということになる。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/o/oninokakuran.html

によると,

「霍乱は、もがいて手を振り回す意味の『揮霍撩乱(きかくりょう らん)』の略で、日射病や暑気あたり、江戸時代には夏に起こる激しい吐き気や下痢を 伴う急性の病気をいった。 いつもは健康な人を強くて丈夫な人を『鬼』、珍しく病気になることを『霍乱(急性かつ苦しむ病気)』にたとえ,『鬼の霍乱』というようになった。」

とある。『由来・語源辞典』

http://yain.jp/i/%E9%AC%BC%E3%81%AE%E9%9C%8D%E4%B9%B1

には,

「『鬼』は強くて、丈夫な者の象徴。『霍乱』は漢方の用語で、日射病や夏に激しい下痢を起こす急性の病気のこと。つまり、鬼が病気になるれば誰でもびっくりするところから、いつも丈夫で健康な人が病気になったときに使われるようになった。」

とある。どうも,「霍乱」ということばに,この諺の鍵がありそうだ。辞書(『広辞苑』)には,

暑気あたりの病。普通は,日射病を指すが,古くは吐瀉病も含めて用いた,

とある。季語は夏なので,今風に言うと,

夏バテ,

となるが,重ければ,

熱中症

ということになる。暑気あたりは,『日本大百科全書(ニッポニカ)』

https://kotobank.jp/word/%E6%9A%91%E6%B0%97%E3%81%82%E3%81%9F%E3%82%8A-1545933

には,

「夏の暑さのために病気になることをいうが、医学では、一般に暑熱障害と総称される。臨床的には、熱疲労、熱けいれん、熱射病・日射病に分けられる。熱疲労は、もっとも普通にみられる病型で、高温環境下での労働、炎天下のスポーツなどでおこりやすく、体温は正常であるが、水分や塩分の欠乏をきたし、ショック状態となる。熱けいれんは、発汗で塩化ナトリウムの喪失が著しいときにおこり、有痛性の四肢あるいは躯幹(くかん)の筋肉群にけいれんをきたす。熱射病・日射病は、とくに夏の強い直射日光にさらされ、前夜の睡眠不足や疲労が重なると発症しやすく、体温調節中枢の機能が障害され、発汗が止まり、体温の異常な上昇をきたすのが特徴である。暑熱障害では、体温(直腸温)が41℃を超すと脳に非可逆性変化をおこし、死の転帰をとることが多い。」

とある。熱中症は,

「暑熱環境下においての身体適応の障害によっておこる状態の総称である。本質的には、脱水による体温上昇と、体温上昇に伴う臓器血流低下と多臓器不全で、表面的な症状として主なものは、めまい、失神、頭痛、吐き気、強い眠気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗(または汗が出なくなる)などがある。また、熱中症が原因で死亡する事もある。特にIII度の熱中症においては致死率は30%に至るという統計もあり、発症した場合は程度によらず適切な措置を取る必要があるとされている。また死亡しなかったとしても、特に重症例では脳機能障害や腎臓障害の後遺症を残す場合がある。」

とある。医学的な区別は別にして,暑熱に対応できない肉体的な反応らしく,どうやら,(前兆はあるが自覚しないまま)突然起きるらしい。

「霍」の字は,

「会意文字。もと『雨+隹二つ(並んで飛ぶ鳥)』。雨に降られて,パッと羽を広げて飛び立つ鳥の羽音のあわただしさをあらわす。『霍』はその略字」

で,

はやいさま,
ぱっとひろがるさま,
ぱっときえるさま,

と,すばやいさまを指す。「乱(亂)」は,

「(亂の)左の部分は,糸を上と下からてで引っぱるさま。右の部分は,乙印で押さえるの意を示す。あわせてもつれた糸を両手であしらうさまを示す。もつれ,もつれに手を加えるなどの意をあらわす」

とある。まあ,突然,突発の乱心に,周りが慌てたのだろう。

『大言海』には,「霍乱」は,

「(霍は直音,カク,揮霍,繚乱の義。身を悶え,手足を振り回す態を示すと云ふ)烈しく吐瀉する病,多く夏日の飲食に起こるに云ふ」

とある。『古語辞典』には,

急性胃腸炎または吐瀉病の漢方名,

とある。暑気あたり,などという生易しいものではないようだ。

参考文献;
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm


posted by Toshi at 05:36| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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