2016年02月10日

へび


へびの語源は,

「『ヘ(這・延)+ミ(虫)』の湯音韻変化」

とある。

くちなわ,

とも呼ぶ。「くちなわ」の語源は,

「朽ち(罵り語)+ナワ(青大将)」

とあり,「朽ち+縄」は俗解と退ける。『大言海』によると,ヘビは,ほかにも,

やまとのかみ,
ながむし,
たるらむし,
たるなむし,

等々の異称があり,「へみ」について,

「延蟲(はえむし)の約(白蟲(しらむし)しらみの類),転じてヘビとなる(黍(きみ)きび,夷(えみし)えびすと同趣)」

とある。

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/he/hebi.html

には,

「ヘビの語源には、『ハヒムシ(這虫)』の略など這うように動く様子からとする説や、脱皮を することから『ヘンミ(変身)』の転とする説、小動物を丸のみするところから,『ハム(食む)』の転といった説がある。 ヘビが体をくねらせて前進する姿は特徴的であるし、脱皮の『ヘンミ』が『ヘミ』『ヘビ』へと変化する過程で、「ビ(尾)」の意味が加わったとも考えられる。また『ハブ』や『ハミ(マムシ)』は,『食む』からと考えられているため,『食む』を語源とする説も十分考えられる。
 古く『へび』は,『へみ』と呼ばれており,『ヘミ』が変化して『ヘビ』になったと考えられているが,『ヘビ』の方言には,『ヘム』『ヘブ』『ヘベ』『ハビ』『ハベ』『ハム』『ハメ』『バフ』『ヒビ』などのほかに,これら二音の中間に『ン』を挟んだ『ヘンビ』『ヘンミ』など数多くの呼称があり,どの語が元で多くの方言が生じたか定かでないため,語源もどの説が正しいとは言い切れない。」

としている。同じ,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ku/kuchinawa.html

は,「くちなわ」については,

「ヘビを『くちなわ』というのは、ヘビの形が朽ち た縄(腐った縄)に似ていることから。 口が付いた縄の意味ではない。」

としている。念のため,漢字の「蛇」の字は,

「它(た)は,頭の大きいヘビを描いた象形文字。蛇は,『虫+音符它』で,うねうねとのびる意を含む。它が三人称の代名詞(かれ,それ)に転用されたため,蛇の字で它の元の意味をあらわした」

とある。もともとの「へび」は,

這う虫,
ながむし,
くちなわ,

には,価値表現も感情表現もない。「蛇」の字そのものにも,状態表現しかない。いつから,畏怖や怪しいものに変ったのだろう。

阿部正路氏は,

「蛇の古語はナビ=奈備である。それを鎮めて神奈備とし,日本の神の基本に据えたのも所詮蛇への畏怖である。」

とある。妖怪の「濡れ女」にしても,「ろくろく首」にしても,蛇を根底においた妖怪,とする。

ろくろく首.jpg

鳥山石燕『画図百鬼夜行』より「飛頭蛮(ろくろくくび)」


『俵藤太物語』には,大蛇に頼まれて近江国三上山の巨大な百足を退治する話が出ているが,

「蛇と水と龍はひとつながりの存在であり,蛇が人間の力を借りて百足を退治するのは,足のない妖怪の足を持つ者への限りない恐れを暗示する」

という。しかし,思うに,

「竜蛇の力こそ人間にとって理想の怪力をもたらすもの」

と思われているのに,

最後は,八俣の大蛇のように,最後は退治される。恐れとは退治の対象そのものなのかもしれない。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
阿部正路『日本の妖怪たち』(東京書籍)
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)



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