2016年02月16日


「あく」は,

悪(惡)

と当てるが,『語源辞典』には,こうある。

「アク(悪)は,中国語をそのまま使っています。中国語源の悪は,『亜(先祖の墓)+心』です。『先祖の墓の前に立っている忌まわしい心』の意です。転じて,醜い心,胴テクニカルスキル的によくない意です。日本語でワルイ名詞形はワルですが,イタズラッ子に使うくらいで,一般的な善悪の悪は,中国語を使っているのです。」

とある。因みに,「ワルイ」については,

「語源は,『ワル(割る・破る)で,割れた物は』は『悪』です。…つまり『壊れた物ハ,ヨクナイ』というのがワルイの語源です。」

とある。漢字の「悪(惡)」の字は,こう説明する。

「亜(亞)の字は,象形文字。建物や墓をつくるために地下に四角く掘った土台を描いたもので,表に出ない下の支えの意から,転じて,つぐことを意味する。堊(建物の土台となる粘土)の原字。また,下でつかえるの意を派生し,唖(のどがつかえてしゃべることができない)・惡(胸がつかえて嫌な気持ち)に含まれる。惡は,『心+音符亞』で,下に押し下げられてくぼんだ気持ち,下積みでむかむかする気持ちや,欲求不満」

と。ここからは,悪(にく)むは出るが,善悪の悪の意味は,出にくい。で,意味を見ると,

いやな行い,
むかつくような状態,

が,

悪いこと,

という意味が並んで出る。好悪は出やすいが,直接には,善悪の悪の意は出にくい。対象に対する価値判断というより,主体の悪感情,マイナス判断から,善悪が出たように見える。

漢字の悪・醜・慝・凶の区別を見ると,

悪は,善の反なり。美惡・醜悪と用ふ。またにくむと訓むときは,音ヲなり,
醜は,形の見苦しき義。好または美の反なり,
慝(とく)は,心のあしきなり。淑の反なり,姦慝,邪慝と連用す,
凶は,吉の反なり,いまいましきなり,

とあり,主体の反応に中心があり,どうやら,西欧で言う,悪とは少しニュアンスが違う。だから,

「儒教と道教には西洋思想にみられるような善悪の対立構造がないが、中国の民間信仰では何か悪い物の影響についてよく言及される。儒教の主要な関心事は知識人や貴人にふさわしい正しい社会的関係・行動にあった。それゆえ「悪」という概念は悪い行動ということになる。道教では、二元論がその中心に据えられているにもかかわらず、道教の中心的な徳に対立する思いやり、節度、謙虚は道教において悪の相似物だと推測できる。」

とする。中国語の「悪」を借りた日本では,

「日本語における『悪』という言葉は、もともと剽悍さや力強さを表す言葉としても使われ、否定的な意味しかないわけではない。例えば、源義朝の長男・義平はその勇猛さから『悪源太』と、左大臣藤原頼長はその妥協を知らない性格から『悪左府』と呼ばれた。鎌倉時代末期における悪党もその典型例であり、力の強い勢力という意味である。」

と,やはり善悪は,こちらの受けとめ次第である。例えば,鎌倉幕府にとって,楠正成が悪党である,というように。

「『古事記』において、『悪事』は『マカゴト』と読ませる(古代の解釈では、悪の訓読みは『マカ・マガ』となる)。対して、『善事』は『ヨゴト』と読む。現代では、マガゴトの漢字は『禍事』を当て、ヨゴトは『吉事』の字を当てていることからも、古代の感性では、禍(か)=災い=悪という図式ということになる。」

というわけで,「割る・破る」を「ワル」とする心性と重なってくる。それは,客観的な価値観というよりは,主体にとっての凶事をさすのであろうか。

『大言海』は,

あしき事,ワロキ事(善に対す)
よこしまなること,人の道に外れたること,無動,悪逆,
木の強き,猛き,荒々しき意として接頭語の如く用いらる,

と説明し,「悪」のニュアンスをよく伝えているのではないか。

悪源太.jpg

月岡芳年『新形三十六怪撰』より「布引滝悪源太義平霊討難波」


阿部正路氏は,

「秦の呂不韋撰の『呂氏春秋』によれば,『妖,悪也』という。また,『妖,怪也』ともいう。〈悪〉とは,人並み秀れた力をもつ者に冠せされたものであること,悪源太義平や悪七兵衛景清にその例をみる。〈悪〉とはまた,怨死者の悪霊を示すなであること,悪七兵衛景清にまつわる説話がおのずから伝えているが,この悪七兵衛景清は,謡曲『景清』や古浄瑠璃『日向景清』においては,目をえぐりとって盲目となり,なおこの世に生き長らえたと伝える。」

と書く。「悪」は,禍々しさを指していることがよくわかる。

景清.jpg

歌川国芳画『耀武八景 大寺晩鐘 悪七兵衛景清』


参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%82%AA
http://www.youkaiwiki.com/entry/2013/05/12/150634
阿部正路『日本の妖怪たち』(東京書籍)


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posted by Toshi at 05:36| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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