2016年02月21日

ぬし


「ぬし」は,

主,

と当てて,辞書(『広辞苑』)には,

土地や家などを領有し,支配する人,また一般に,ある事を主宰する人,首長,君主,
主人の尊称(後世は尊敬の意を失う),
人・相手の尊称,
所有者,持ち主,
ある行為をした人,ある事柄の中心となる人,当人,
おっと,良人,
山または河などにふるくから住んでいる霊力があるといわれている動物。転じてある場所に長く住んでいる人,

という多様な意味があるが,ほぼ「あるじ(主)」と同義で使われているようだ。『古語辞典』を見ると,

「『…の主人(うし)』のつづまった『…ぬし』が独立して名詞となったものか」

とあり,最初に,

主人,主君の尊称,
(自分に対して主人の位置にあるものとして扱う意から)人・相手の尊称,

とある。それが,だんだん下へ落ち,終には,「この部屋のぬし」の位置まで下落する。

代名詞としての「ぬし」も,『古語辞典』にあるように,従って,

(敬意をこめていう)二人称あなた,

からやがて,

三人称,あのかた,

となるが,これは近世遊女が用いたという。現代だと,これが,辞書(『広辞苑』)には,

あなた,女性から親密な男を呼ぶ語,

という使い方になる。まだ,親愛が残っているだけましかもしれない。しかし,わざわざ,「おぬし(御主)」と,「御」をつけるところからみると,代名詞としては,敬意を込めるには,「ぬし」では足りないと感じるところまで,「ぬし」のイメージが下がっているのかもしれない。

『大言海』には,

「之大人(のうし)の約という。後,誤りて,ノシと云ふ。沖縄にてヌウジ,朝鮮古語,君長の義に,ニシコムと云へり。又,アイヌ語に,ニシバ(殿の意)と云ふ語あり。」

と注記して,

「相手を敬ひ,又人を尊称するに添ふる語。大人(ウシ)と云ふに同じ。」

とある。『語源由来辞典』をみると,

「ウシ(大人)に接尾語ノ(n)が加わった語」

とあるが,大人(うし)の語源を見ると,

ぬしの変化説,
「ウ(大)+シ(人)」の二音節説,

があるが,『大言海』は,

「ウは,おほの約,う(大)の條を見よ。シは,人の意。某(それ)がし,とじ(刀自),みやじ(宮司),沖縄にて,王,又は,地方の頭を,ううぬし(大主)と云ふ」

とあり,「ウ(大)+シ(人)」に軍配が上がる。

それにしても,代名詞として使うとき,

お前
にしろ,
貴様
にしろ,

かつては,「おまえ」が,

御前

で,神仏や貴人の前,

という意味だったり,「貴様」が,

中国語の貴兄などを真似て,「アナタ+サマ」,

の意で,貴信,貴殿,貴君,貴官等々と同じく造語した和製漢語だったりしたのと同様,相手を敬う意であったものが,いまでは,貴様も,『日本語語感の辞典』には,

「同等以下の相手を見下したりして言うときのぞんざいな表現」

とあり,例の「貴様と俺とは同期の桜」というよりも,言われた側の印象が落ちている。

「お前」も,『『日本語語感の辞典』では,

「主に男性が目下かごく親しい相手に使うぞんざいな二人称」

で,確か,女性は,「お前」と会社で呼ばれるのに抵抗があると,記事で見たことがあるほどに,格が下がっている。

手前,

というのは,本来,一人称で,

自分のことをへりくだって言う語,

であったはずなのに,いまでは,

「てめえ」

という言い方で,

相手を見下す二人称

に変っているのとつながるのかもしれない。それは,身分差が,表面上無くなっているようになっていくのに,リンクしているような気がする。しかし,言葉は,

相手がどう受け止めたか,で自分の発話の意味が決まる,

という文脈依存性が高い,それは,時代に合う言葉を使わないと,誤解を招く,ということでもある。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm


posted by Toshi at 05:21| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください